白い無地の布。針と糸、青いリボン。
　窓際、僕の(←ここ強調)ソフィーが帽子を作っている。
　帽子くらい僕がプレゼントするよといったら、彼女は元帽子屋だったから、自分で作れるしいいわと断られた。
　なんとも残念。
　そりゃソフィーはなんだって良く似合うけれど、僕が見立てた服とか身に着けてくれたらもっといい、最高だね。
　だから帽子も贈ろうと思ったんだけどなあ。
　僕は物憂げに頬杖を着いて、そろそろ西日の差してきた窓の光を白皙の頬に受けている。
　こんな美青年を目の前にしても手元しか見てないんだから、ソフィーってば随分もったいない時間の使い方をしてると思わない？
　そろそろ退屈してる僕のため息にも気付いてくれないんだ。ちょっと薄情じゃないか、僕の奥さん。
「ここ、花飾らない？」
　僕は帽子に巻きついたリボンの横をちょんちょんとつついた。
　ソフィーは顔を上げて随分と久しぶりに僕を見てくれた。
　ああ、やっとだね。こんにちはソフィー。
「わたし、あんまりごてごてしたのは好きじゃないんだけど」
「なら、僕があの庭からキミにぴったりな花を摘んでこよう」
　短くなった髪に手を伸ばそうとしたら、顔を背けられた。
　髪のこの辺りに花を挿したら可愛いだろうな、と思いながら構わず触れる。
　ソフィーも嫌がったのはポーズだけだったみたいで、もう避けようともしなかったし何も言わなかった。
「うん、いいね。きっと似合うよ」
「単にあなたの好みで想像してるでしょ！？　もう……」
　ちょっぴし拗ねた口調も可愛かったりして。
「でも、嫌じゃないよね、僕の好みの格好するの」
「……」
　おや、黙っちゃった。まあその表情がなにより雄弁に語っているからいいけどね？
　僕の方はというと、頬がにやつくのを抑えられない。
「だって君、僕のこと大好きだろう」
　自信たっぷりに言ってみた。そりゃ自信あるさ、事実だってわかってるから。
　あ、真っ赤になってる。そこで照れちゃうところがソフィーの可愛いところだよね。
「さて、じゃあ僕のお姫様に献上するにふさわしい、とびっきりの花を探しに行くとしようかな」
　僕は立ち上がる前にソフィーの手を取ると、甲に恭しく口付けた。
「あなたは頭に花が咲いてるわね」
　ドアを開けるときの、後ろからの呆れたような声はことは聞かなかったことにしよう。
　そして帰ってきた僕の腕の中には、きっと君への大量の花束も抱えられてるんだろうね。