どうしてこいつはこんなにも真っ直ぐ、オレに好意を向けてくるんだろう。
光也は薄いレンズ越しの緑色の目を、気付かれないように見た。
綺麗な色だ。ラムネのビンに入ってるビー玉みたいな。高級で気まぐれな猫みたいな。緑。
しかしすぐに、視線には(特に光也の視線には)敏感である仁は、にっと笑って横顔だったものを正面にした。
「なんだ? 見とれてたのか?」
「だっ、誰が!」
「好きだよ」
「脈絡なく言うなっ」
実はその色に見とれていたけど、というのは心の声である。実際に口に出したら仁を調子付かせるのは明白だ。
「好きだよ、みつ」
祖父である慶光への好き、と光也に対する好き、どちらでもありどちらでもないように聴こえた。
境界がだいぶ曖昧になってきたのかもしれない。
それはいいことか、それともその逆か。光也にはわからない。何一つ。
黙り込んでしまった光也に、仁は少々意地の悪い笑みを浮かべた。
「そう照れるなよ」
「照れてねえよ……慣れてねえだけだ」
そう。
何度も何度も言われたことのある「好きだ」のセリフだけれど、冗談めかして迫られるキスを拳で拒むことには慣れたけれど、光也は、本気が含まれる「好きだ」には、どこか慣れることが出来なかった。
「つーか……ストレートに好き、とか……ぶつけられるのって、全然なかったからさ」
母親のように歪んでしまった愛情や、祖父のように穏やかな愛情しか知らなかった光也にとって、仁の真っ直ぐさは戸惑いを生んだ。
「……受け取りづらい」
「ふーん?」
顎の横に軽く握ったこぶしをつけて、仁はわずか身をこちらに乗り出した。
「普通は何事も、真っ直ぐの方が取り易いと思うんだがな」
「かもしんないけど、直球ってそのぶんスピードが出るだろ」
この時代って野球あんのかな、とふと思いながら光也は言った。
仁は興味深そうに眼を細めた。なるほど、と呟いて、光也の黒い髪を一房取った。
それを光也がいつものように殴り飛ばせなかったのは、油断していたせいだ。
「それなら、受け取らなくてもいい。僕が勝手に投げているだけだから、気負う必要はないさ」
さらりと指の間をすり抜けていく髪の毛。
「……殊勝な心がけ……」
「そう?」
けろり笑う仁、光也はふいと仁から視線を逸らした。
補足:この光也は別に仁に恋愛感情持ってるわけではないです。(05.11.21)
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