ふいに頭の後ろに仁の手が伸びて、同時に近づいてきた顔を、光也は咄嗟に両手ではたいた。
挟んだ、と言ったほうが正確かもしれない。
どちらにせよ、ばちん、となかなか小気味いい音がした。
ちょ……っと、痛そうかもしんない。いやでも、悪いのはこいつだし。オレが罪悪感覚える義理なんてまったくないし。
快音を残して離れた手のひらは、仁の頬にうっすらと赤いもみじを二つ作った。
腕を伸ばしかけた姿勢のまま、仁は言った。
「……いきなり何をするんだ」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!」
まったく仁ときたら、油断も隙もありはしないのだ。
いつも光也が気を抜くとすぐ、間近に迫った彼の顔がある。
避けなければ、唇が大抵そのまま頬に押し当てられるのだから、光也が警戒するのは当然だった。
「お前、よくもまあ毎日毎日懲りもせず……」
呆れる光也に、しかし仁は動じなかった。
「お前の頭に葉がついていたんだ。取ろうとしてやったのに、その態度はひどくないか?」
「は?」
光也が首を巡らせると、秋も深まったこの頃は、木々は確かに色づいて、はらはらと風にその葉を舞わせている。
さらりとした黒髪を撫でて、仁は指に摘まんだ茶褐色の葉を光也に示した。
「ほら」
「……悪かったよ」
問答無用で叩いたのは確かにちょっと、浅はかだった、と光也は己の非を認めた。
だが、普段から誤解されるような言動をとる仁にも、原因はあるのではないだろうか。
にやにや意地悪く笑う仁を見ていたら、そう言わずにいられなかった。
「で、でもな……元はといえば、お前の日ごろの行いが悪いから」
「言い訳とは男らしくないぞ、みつ」
「抜かせ、事実だろうが! グーじゃなくて平手だっただけ良かっただろ」
「ハイハイ」
光也の中に、勘違いで仁を殴ってしまったことに対する後ろめたさがあって、だからだ。
再び近づいてきた仁の顔を避け忘れてしまったのは。
気付いたときには、頬に柔らかい感触が生まれていた。
「――――――!!」
声にならない叫び。ちゅ、と耳側で聴こえた音にも、頭が一瞬真っ白になった。
「っ……てっ……てめ……」
口をぱくぱくとさせる光也に、仁は平然と言ってのけた。
「唇じゃなくて頬だっただけ良かっただろ?」
しれっとしたその顔が憎たらしい。光也はこらえきれず噴火した。
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」



ただのじゃれあいです。(05.12.02)

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