帰れないのもつらいが、帰った後のIFを考えてしまうのもつらいと感じる自分がいることに気付いたとき、光也はいつまでもこのままでいてはいけないと思った。
帰りたい、けれど、こちらに別れ難い関係も出来てしまった。
でも、いつか終わりが来るかもしれない。
慶の言ったように、はかない存在である光也たちは、いつまた一方的に、こちらとの関係を断ち切られるか判らないのだ。
ならばせめて、自分の手で終わらせたかった。
話がある、と仁に切り出したとき、彼は光也の様子がいつもと違うことに気付いたようだった。
光也は深刻な顔をした仁を目の前に、初めてこちらに来たときのことを思い出していた。
あのときは、現実を受け止められずに、具体的なことを考えることから逃げて、漠然とした不安しかなかった。
そして少しずつ慣れていった。仁がいたからこそ出来たことだったと思う。
今は? 今は、オレが、一人で。ちゃんと立ち向かわなくては。
光也は仁の目を真っ直ぐ見た。こらえて、真っ直ぐ。一瞬泣いてしまいそうになったのは許して欲しい。
「オレ、たぶん、ずっとここにはいられない。だから、お前もオレなんかに言っちゃいけないんだ」
「み、つ……?」
「いなくなってしまうオレが貰うべきじゃない言葉なんだよ」
お前が好きだ、なんてつらいだけだ、言ったほうも、言われたほうも。
仁の色つきのビー球のような瞳が光也を見返す。
「慶光と区別しているならいい、と言わなかったか?」
「あのときは、そう思ってた」
「今は違うのか?」
答えようとして答えられずに、光也は息を呑んだ。
仁の表情があまりに切なかったから。
「お前も、僕の気持ちを言わせてくれない気だと」
仁がぐっと拳を握る。
俯いた彼の肩の震えが怒りによるものだと悟って、光也は自分の身体がよろめくように思った。
「ふざけるな!!」
こんなに激しく怒りをあらわにする仁を、光也は知らなかった。
炎のような感情を秘めた瞳はぎらぎらと光り、きつく光也を睨んでいる。
「僕の気持ちはどうなる! いいか、お前がどこかに行ってしまっても、僕は永遠に追い続ける、お前をずっと追い続ける」
その激しさは、まるで、光也に少しの否やも許さないかのようだった。
ただ圧倒される。光也は言葉をなくした。
「逃がしてなんかやらない、絶対つかまえてやるから覚悟しておけ!」
そう言い放って、仁はふんと腕を組んだ。その姿はどこまでも王様で、とても仁らしくて。
負けた、と光也は思った。
「……お前、どんだけオレが好きなんだよ」
光也がさんざん悩んで、迷って、不安だったのに、それらを散らしてしまえる。
こいつはすごい。
ジィちゃん、あなたが大切にしていた親友は、あなたと同じようにこんなにも強いやつなんだな。
この部屋に入ってからようやく、光也は笑うことができた。仁の怒りが和らいだのがわかった。
「永遠って……しつこいというか、執念深いというか」
「そうだぞ、僕はしつこいんだ」
仁が、未来へ――光也のいた現代まで生きて、追いかけてくる。
年をとった仁と再会する、それもいいかもしれない。結構面白いんじゃないか。
想像したら笑みがこぼれて、光也は仁に笑顔を向けた。
「覚悟しとく」
覚悟完了。(06.02.03)
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