こうも毎日好き好き好き好き愛してると連呼されれば、耳にタコが大量発生だ。
 しかも、このところ前よりパワーアップしてる気がする。
「お前は一休さんか」
「なんだって?」
「なんでもない」
 目の前のテーブルにはコーヒーと洋菓子。
 香ばしい匂いを振りまく濃い色の液体を楽しみながら、光也は仁とたわいもない会話を交わしたり、一方的に愛を訴えられたりしていた。
「なんか、お前、最近……」
「ん?」
 積極的すぎじゃねぇ? という言葉を飲み込んで、代わりにコーヒーで温められた熱い息を吐く。
「やっぱなんでもない」
 仁は眉をひそめた。
「気持ち悪いな。はっきり言え」
「たいしたことじゃないんだって」
「たいしたことじゃないなら言えるだろう」
「ん――――……」
 意味もなくからからとスプーンでかき混ぜる。
 砂糖なんかもう溶け切っていて、だからそんなことをする必要はないのに。
 からん、と手を離して、光也は口を開いた。
「なんか最近のお前、スキンシップが過剰だ、と、思った」
仁は光也の言葉を待っている。
「……っから、なんでそんな迫ってくるんだろうと……訊こうとして、思い直したわけだ。以上、終わり」
 慶光でもない光也(自分)に迫っても意味はないのに。そのはずだ。
 なのに最近の仁はとても楽しげに、時に真摯に光也を口説く。なぜ?
「へえ」
 仁が笑った。
 彼がこの顔をしたとき、たいてい碌な目に合わないのを光也は学んでいた。
 急いでコーヒーを飲み干そうとして、むせた。
「お前は隙だらけだからな。迫りやすいんだ」
「だっ、誰がっ……」
 光也は涙目で咳き込みながら、それでも反論しようとした。
 椅子から立ち上がり、傍らにやってきた仁の手が、咳のせいで丸くなった光也の背を撫でた。
「さ……わんなっ、て」
「それに、押したら押しただけ反応が返ってくるから楽しいし? あと、これが最大の理由だが――」
 異物が気管に入ったせいで乱れた呼吸を、光也は必死に整えようとしたのに。
 その努力をどうしてこうもまあぶち壊してくれるんだろう、こいつは。
「落とせると思ってるから、迫って迫って迫り倒してるんだよ」
 水滴が、変なところに入った。
 せっかく治まりかけていたものを、再び苦しむはめになる。
 背を撫で続ける仁を見ながら、飲みかけのコーヒーをその顔にぶっかけてやろうか、と光也は思った。



光也は迫りやすそうだなーと思って……(06.02.04)

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