後頭部に、ずきりと鋭い痛み。
後頭部だけじゃない、目覚めた瞬間から痛みは全身のあちこちに飛び火してオレを苦しめた。
生爪を剥がされるなんて経験をするとは思わなかった。
貴重な体験で得したなんて思えるはずもなく、胸のうちで、実際に口にはできないような汚い言葉を吐き尽くす。
「ここは……」
畳の上、見覚えのない家具や火鉢。慶の家ではなさそうだ。
そのままふと視線を下に落とすと、家具よりも見覚えのある人間が目に入った。
「……仁」
今の状況が、一気に頭の中を駆け巡った。仁に嘘を吐いて、危険なところへ行った。
あげくこんな怪我までして。こいつが目を覚ましたら何を言われるか!
そんなオレの焦りを嘲笑うかのように、その瞬間はやってくる。
「ん、みつ?」
透明な緑の目。ズタボロのオレの顔を映しこみ、その他には何も見ていない瞳。
胸を突き刺す感情の色。
「よう」
とりあえず、気まずさをごまかすように適当に声をかけた。
仁の顔は見る間に怒っているような泣き出しそうなくしゃくしゃに歪んで、気づけばオレは仁の腕の中にいた。
絞め殺されるんじゃないかと思うくらい強く抱きしめられ、オレは痛みに声を上げそうになった。
「光也……」
連絡を受けて、心臓が悲鳴を上げてこのまま潰れて死んでしまうんじゃないかと思った、と仁の声は言った。
そうか、慶が知らせたのか。じゃあきっと、ここまで運んでくれたのも慶だな。礼、言わないと……。
「みつお前、以前自分が言ったことを覚えてるか」
「……なに?」
「オレはお前の隣に立っているんだ、と。二度と一人でなんか行かせないと」
「……ああ」
「なら何故、僕はお前が怪我をしたと他の男から聞かされ、駆けつける羽目になっているんだ?」
「それ、は……」
「お前が僕の隣に立っているということは、僕もお前の隣に立っているということじゃないのか?」
空気がぴりぴりする。本気で怒っているのだろう。
オレは何も言えなかった。ただ、痛みをもてあましていた。
「僕もお前に言おう。――――二度と一人でなんて行かせない」
仁の肩が細かく震えているのに気づいてしまったから、オレは痛いから離して欲しいという言葉を言い出せなかった。