押し問答の後、ようやく覚悟を決めたのか、光也はぱたりと大人しくなった。
「わかったよ……そのかわり、ちゃんと気持ちよくさせろよな!?」
 けれど、こちらに挑みかかるような顔と言葉とは裏腹に、身体はまだ緊張が解けていないのが見て取れた。
 ああ、そんなに可愛らしいところを見せられてしまったら、抑えがきかなくなるじゃないか。
 仁はその衝動に忠実に従った。すなわち思い切り光也を抱きしめた。
「仰せの通りに」
 耳元で囁いて、そのまま首筋に顔を埋める。
 くすぐったかったのか、一瞬光也が肩をすくめたが、すぐにその力も抜けた。
 光也の肌は透けるほど白い。絹の黒髪との対比が美しいと思う。
 仁が世界で一番好きな身体だ。
 唇をつけて、舌を押し当てて、時折甘く噛んで、そして吸い上げる。
 見えるところに跡を残すわけにはいかないから、あまり強く吸えない。
 本当なら思うさま所有印をつけてやりたいのに。彼が自分のものだと知らしめてやりたい。
 光也の腕はしばらく何をすべきか戸惑っていたようだったが、どうやら一つは仁の背中に、そしてもう一つは仁の後頭部に落ち着いたらしい。彼の指が、茶色いくせっ毛をいじっている。
 それを咎めるつもりで、仁は顔を上げると細い指を取って、指先に口付けた。
 ひっこめようとするのを許さず、赤い舌を見せ付けるようにして這わす。
 すると、仕返しなのか知らないが、光也の方も仁の空いている指をぱくりと咥えた。
「こら」
 仁は光也の口の中からやんわりと指を引き抜く。
 神経の多く通った箇所で得られた、濡れた唇の感触にたまらなくなって、食むようなキスを繰り返す。
 合間に彼がこぼす吐息が愛おしい。
 顔を離すと、潤んだ目で睨み上げてくる。そんな顔をされたってちっとも怖くはない。 それどころか。
「……卑猥だなぁ」
「ひっ……お前がやってんだろーが!!」
 彼の表情も、もはや自分を余計に煽るだけなのだ。