後ろから抱きしめる。
 胸に抱いた愛しい恋人は、仁に罵倒ばかりをくれた。ひどいったらない。
「痛! いっ……て、……てんめェ、今度同じ痛み味わわせてやるかんな!」
「僕がされるほう? それはちょっと、遠慮するな」
 くすり。微笑しただけのそんなわずかな振動にも、光也の身体は震える。
「……自分が、されて嫌なことっ……は、人にもする、なって、教わらな……っあ」
「なに?」
 教わらなかったのかよ! 光也の掠れた声とともに、はぁ、と息が吐き出された。
 乱れた呼吸まで全部飲み込んでしまいたい、彼のものは全部欲しくて、仁は光也の身体をぐっと引き寄せた。より近づく。光也のなめらかな背が仁の胸に触れる。
 こみあげてきた愛しさに突き動かされて、仁は目の前で揺れる肩の肉にかぷりと噛み付いた。
「っ」
 うっすら残った歯形が汗ばみだす。仁は光也の首筋に絡みつく髪の毛を払って、現れた耳を食む。
 この肉体を、この肉体に包まれたたましいを、愛しいと思う。
「ぜってぇ……あと、で、殺してや、る……っ」
「……怖いな」
 ぬるぬると、汗とそれ以外の体液ですべる。
「じゃあ、僕は今お前を殺しておこう」
 言葉が終わると同時にさらに奥へ。光也の悲鳴じみた喘ぎが上がった。
「う、あっ! あ!」
「そんなに痛い?」
 流石に気が咎めて仁は問うた。
 光也が答えるまでに、少しの間があった。
「あ、たりまえ……だ、ろ」
 非難の言葉。
 だけど甘く溶けた語尾が、それが嘘だということを明かしてしまっていた。
 もちろん痛いというのは本当のことだろう、しかし痛いだけではなくて、ちゃんと。
 仁の胸がじんわり喜びに満たされる。
「……なに笑ってやがる」
 悔しそうな声が聞こえた。
「あれ。わかる?」
 背中を向けている光也からは、仁の顔は見えないはずなのに。
「そりゃ、伝わってく」
 言いかけて、光也は途中でそのセリフのとんでもない意味に気付いたらしい。
 自分で言ったくせに真っ赤になった彼がどうしようもなく好きだ。
 好きだ、と思ったら止まらなくなった。