しょっちゅう泣いてばかりいる光也を、どうせ泣くなら自分のためだけに泣かせたいと思った。
 ベッドは乱れに乱れて、室内の空気はねっとりと重い。熱に浮かされたようだ、この部屋も自分も。
 最初のうちは聞こえていた抵抗や罵りの声が、もうすっかり途絶えている。
 今聞こえるのは互いの息と、身体が触れ合うときに立てる音だけ。
 光也は唇を閉じることもできずに焦点の合わない目で必死に呼吸している。苦しそうだった。
 その表情にたまらない悦びを感じる自分はおかしいのだろう。
「……! は……っ、ぁ、――――!」
 吐かれる息と意味を成さないただの音の切れ端。
 ひょっとして気持ちよすぎて声にならない? 考えて、苦笑して打ち消した。
 まさかそんなこと、妄想にしたって行き過ぎている。
 黒い目は潤んではいるが、涙はその頬を伝ってはいない。
 じっくり、そしてたっぷりと。
 あとどのくらい責め立てれば雫を流すのか、仁は愛撫の手を休めず、光也の反応を観察する。
 彼が泣いたなら止めてやる。いや、彼の泣き顔を見たらますます止められるはずがない。
 びくびく身体を引きつらせながら泣けばいい。仁、と自分の名前を呼ぶのもいい。
 あるいは声も出せず気絶すればいい。目の端に残った涙を舌で拭おう。
 そうしたらそのとき僕は、肺の中いっぱいに広がる征服感に満足して笑うことができる。


(06.02.07)