一度光也を昇りつめさせてしまえば、そこから先は簡単だった。
 おそらく自分の意思とは裏腹に動く身体に戸惑っているのだ。
 脳の許容範囲を越えた快楽を持て余して、だから抵抗する気力に回す部分がない。
 仁はまた、光也の耳に意地悪な言葉を流し込む。
 囁く声の熱いこと。我ながら笑ってしまう。快楽に流されかけているのは、光也だけではない。
 仁だって、こんな魅力的な光景に心を乱さないでいられるはずがなかった。
 汗。また、汗。水気の多い吐息。
 だらしなく開いた口元からは唾液が一筋こぼれているし。
 拭ってやろうかと考えて、これはこれでそそられるのでいいかとそのままにした。
「……みつ」
 返事はない。もとより返ってくるとも思っていない。
 その代わり聞こえる喘ぎ声で十分すぎるほど満たされる。
「……ぁ、っは、はぁ、は、……っ、ん、ぅ……」
「みつ」
 ふと、みつや、と呼んでみたら、わずかだが明確な反応があった。
 たった一音の違いなのに、光也にとってはたったどころではない違いらしい。
 反応は、ないよりあったほうが楽しめるに決まっている。仁は繰り返した。
「みつや」
「っん!」
 指先で輪郭を辿る。目の周りを黒く縁取るまつげに軽く触れる。
 閉じさせてやった方が親切かもしれない。けれど仁は、光也の目を見ていたい。結局は全てが自分のわがままなのだ。
 今の光也の身体は、まばたきをするのですら多大な労力が払われているのだろう。
 だとしたら、どうしようもならない快楽にがくがく震えることは、なおさら。
 そしてそれをわかっていてなおも、彼を責め苛むのをやめない僕はなんなんだろう。
 考えるだけ無駄だと、仁は浮かんだつまらないことを捨てて、行為に集中することにした。
 つらそうだなあ、と思う。
 ごめん、僕は気持ちいいよ。
 息をするのを忘れるほどの幸福に、意識が飛びそうだ。


(06.02.08) いったいどうしちゃったんですか私。