目が覚めた瞬間全身がだるくて、ほんとにやっちゃったんだ、と光也は天井を眺めた。
 あーああ、男とやったなんてお袋(あのひと)が知ったら、卒倒するだろうなあ。
 光也だって自分でもびっくりしているぐらいだ。
 やめやめ、とまぶたの上に手を置いた。
 母親のことをあまり考えすぎると気分が落ち込んでくるのでよくない。
 それで何か別のことを思い浮かべようとすると、――――まあ一番最近の記憶になってしまうわけで。
 昨日の具体的なことは、正直あまり覚えていない。
 ただ熱くて痛くて、やたら無理な姿勢をさせられたことと、「光也が好きだ」と何度も囁いてもらえたことだけは覚えている。そのたびに幸福な気分になったことも。
 夢じゃねぇ……んだよなぁ、と光也はごろんと身体を反転させて、自分の隣ですやすや眠る仁を見つけて実感した。
 幸せそうな顔をして寝ている。こういうのを健やかな寝顔というのだろう。
 眼鏡をはずした彼は、年相応というか、なんだか少し子どもっぽい気がする。
 けれどああいうことが出来てしまうんだからやっぱり子どもとはいえないかも……と考えながら見つめていたら、うっかり思い出してしまった。
「……っ」
 光也は慌てて目を逸らした。
 朝の空気はひんやりと冷たく、頬の熱を冷ますにはちょうどいい。
 着替えよっかな、と上半身を起こそうとしたら、痛みに襲われた。思わず声が出てしまう。
 これはひょっとしてトイレで地獄を見ることになるかもしれない。
 現実的で嫌過ぎる問題にショックを受け、光也はげんなりした。最悪……。
 ていうかこいつが容赦なく突っ込むから!
 目の前の元凶にムカついてきて、その高い鼻でも摘まんでやろうかと手を伸ばしかけたとき。
 触れる直前で、仁が目を覚ました。
 眉を寄せ、
「……なんだ、この手は」
「べ、別に」
 答えた自分の声がガサガサしすぎていて、どれだけ声を上げさせられたかを証明しているようで一気に恥ずかしくなった。
「大丈夫か?」
 大丈夫じゃねぇよ……と情けない声が出る。
 だいたい誰のせいだと思って、そう思うと自然、仁に向ける視線が恨みがましいものになった。
「あぁあ……初めてだったのに」
「初めてだったのか、それは良かった」
「よくねェ! ……初めてが男ってどうなんだよ」
 しかも相手に主導権を握られていいように喘がされるなんて、逆ならまだしも……いや逆ならいいってわけでもないけど。
「何を言ってるんだ」
 呆れたような仁の声が聞こえたのでそちらを向くと、当然だろうと言いたげな自信に溢れた表情にぶつかった。
「初めてだけじゃなく、次もその次もずっと、最後まで男の僕になるんだぞ?」
 そのまま片手で抱き寄せられた。
 もしかしてこいつ寝ぼけてるんじゃないかと思うぐらい甘い声が、光也の耳に触れてくる。
「だから、お前が僕を好きだと言ってくれるなら、僕はどんなことをしてもお前を幸福にすると約束する。誓うよ」
 光也はため息を吐き、それは仁の肌をくすぐった。
 酷使された喉に微妙な痛みのようなひっかかりを感じながら、それでも光也は口を開いた。


これでコーヒーを金星に飲みに行ったら笑えます
(06.02.17)