セックスは嫌いだ。
痛いしめんどくさいし疲れるし気持ち悪い。
それでも、そんなそぶりを見せてはいけない。
彼に――キラに気づかれてはいけないから。
フレイは唇を色が変わるほどきゅっとかみしめた。
汗と体液の匂いがするシーツの上。
ベッドの中の、キラとフレイの身体の間には、たくさんの人の死が横たわっている。
フレイは何も持っていなかった。
自分以外何も。
キラを繋ぎとめておく対価として自分の身体ぐらいしかなかったから、それを差し出しただけだ。
何がいけない?
私を責める権利なんて誰にもないはずだ。
私からパパを奪っておいて、このまま済ませろとでも言うのか?
復讐を悪いことだと、そう声高に主張するやつら。
吐き気がした。
思わずフレイは両手で口を押さえた。
呼吸が荒くなる。
激しい動悸に見舞われて、目の前が揺れた。
汗がひいて、肌がふつふつとあわだっている。
寒さを感じて、震えるむき出しの肩をかき寄せるように抱きしめた。
寒い寒い寒い、怖い痛い嫌だ誰かたすけてどうすればいいのどうすれば吐きそう教えてもうわかんないぜんぶぜんぶわたしだめきもちわるいつらいよでもちがうそうじゃないそうじゃなくてなのにどうしてああ
しっかりしなくてはいけない。
なのに、フレイの心は壊れそうだった。
いつまで自分は耐えられるだろう。
気持ち悪いの? とキラが言った。
いつのまに起きたのか、それすらわからなかった。
フレイが勝手にキラは寝ていると思っただけで、ひょっとしたら最初から眠ってなんかいなかったのかもしれない。
油断のならない子だ。
フレイはまた自分の内側を固く固く張り詰めさせる。
気づかれてはならないのだから、本心を見せるようなこと、あってはならないのだから。
弱音を吐くな!
フレイは自分を叱咤した。
立ち止まってなんかいられない。後悔もしてはならない。
大丈夫、彼女は賭けに勝った。
フレイは子犬を思わせるキラの目を見て、大丈夫よと言い、安心させてやった。
それでもキラは、なおもフレイを心配していた。
後ろめたいのだろうか、とふとフレイは思った。
そうかもしれない。
キラは、自分がフレイの身体に無理を強いていることをわかっているのかもしれない。
フレイは腕を広げて、その中にキラを抱え込んだ。
優しくしてあげなければ、守ってあげなければ。今はまだ。
そうして甘くささやいてやる。
私がいるわ、あなたには私が、わたしが……
キラはフレイが彼のことを好きだと思っているだろうか。
フレイの身体の中で、怒りは優しさに、憎しみは愛情に変換されて、外に出て行き、キラに触れる。
心なんか、いくらでも偽れる。
それを信じ込んでいるのだとしたら、キラが少し可哀想な気もした。
わかっていて欲しいのか、わからないでいて欲しいのか、わからなかった。