フレイの中のキラは、いつだってフレイより弱かった。
かわいそうなキラ、弱いキラ。ちっとも強くなんてない、泣き虫の男の子。
大嫌いなコーディネイター。
大好きな道具。私のためだけの、戦う道具。
アークエンジェルが揺れる。
キラが戦っている。
きっと外では、激しいぶつかりあい、いや、殺し合いがつづいている。
フレイは祈るように指を組んだ。
ダメ。まだ死んでは、ダメ。
だから、生きて還ってきて。
私のところへ、受け止めるから。
受け止めてあげる。
キラは戦うだろう、彼女のために。
彼女を守るためだけに。
それは甘美なほどの想像だった。
フレイはどこかうっとりとした、うつろな瞳で笑った。
その想像を現実にするためなら、なんでもする。
なんだってあげる。かまわない。
戻ってきたキラの身体を抱きしめてあげよう。
こぼれる涙はぬぐってあげよう。
震える肩は温めてあげよう。
赤い傷は舐めてあげよう。
自分を責める言葉を吐く唇はキスしてあげよう。
水平線よりもっと先のある海のような、この宇宙でたったひとりだというなら、傍にいてあげよう。
キラの手が血で汚れていくほど、フレイの心はきっと満たされるだろう。
殺して殺して殺して、殺しつくすまで、解放してやったりするものか。
フレイは羅針盤のように、キラに方角を教える。
キラは戦って死ぬの。



キラが眠れるように、フレイはキラの隣で寝た。
フレイを抱くときのキラは、いつも初めのうちは怯えきっている。
拒絶を恐れる瞳をしている。
フレイは拒むことをしない。
そんなことをすれば全てが無駄になると知っているから。
それなのにキラは、まるでフレイに触れるのをためらっているように、おずおずとしか動かない。
だがそれもいつしか何も考えられなくなり、ただひたすらにフレイを求めるようになる。
いつもそうだった。
フレイは痛む身体を隠しながら、キラに平気と笑って見せた。
「ねえ、フレイ……僕は、間違ってはいないよね?」
ええ、そうよ。
だからあなたは、何も心配しないで、何も考えないで、ただ先へ進めばいい。
フレイは、彼女自身がいつもどんな顔をしているかしらない。
キラが迷いを、弱さを口にするたび、フレイは悲痛な顔をしているのに。
あるいは、知らないふりをしているだけかもしれない。
なぜなら、その痛みはもはや気づかないではいられないほどの激痛となってきているのだから。
私の磁石は狂ってはいないだろうか。
彼女は不安を押し込めて、なおも笑った、ゆがんだ笑顔で。
泣かないで。
あなたはちっとも、悪くなんてないんだから。
「向かう先がどこでも、君がいてくれて……よかった」
キラがそう言った。
フレイは痛みをこらえるために、目をつぶった。
フレイの思いが、きっとキラを守るだろう。


落ちる涙は、波に呑みこまれて深く沈んでいった。

 

モドル