戦争は終わり、宇宙に平和が訪れたその後。
それが仮初めの平和であったのだと思い知らされたのは、おそらくブルーコスモスの残党であると思われる過激派のテロを、目の前で見てしまったからだった。
キラはフレイと映画を見に行く約束をしていた。
戦争中に映画など撮っている暇は無かったから、もちろん以前の作品の再上映だったが、フレイはまだ見ていなかったので楽しみにしているようだった。
休日の街には笑顔が溢れていた。
ここも、復興の道を着実に歩んでいる。街は生き返ろうとしている。
だからこそ、人々は映画を楽しめるまでになっている。


キラは腕を絡めてきたフレイに柔らかな表情を向け、彼女の歩幅に合わせて歩いた。
暑かったので途中でアイスを買い求めることにした。
キラはチョコミントのシングル、フレイはミルフィーユとバニラのダブルを、それぞれ組んでいないほうの手に持った。
ピンク色のマーブルを舐めながら、フレイは幸せそうな顔をした。
その顔がとてつもなく可愛かったので、キラはキスしたくなる衝動を慌てて引っ込めた。
代わりに水色をした自分のアイスを唇に押し付ける。
「ね、そっちもひとくちちょうだい?」
「あ、うん」
キラの返事を聞いてからフレイは、ひとくちというよりはひと舐めキラのチョコミントを貰った。
間接キス、などという言葉はきっとこの頭の中にはないのだろう。
一人でどぎまぎしている自分がなんだか……負けた気分になってキラはややへこんだ。
そんなへこみキラにおかまいなしで、フレイは今度は自分のコーンを差し出した。
どうやら、キラも食べろということらしい。
間接なんたらをなるべく意識しないようにぱくりとやったら、食べすぎだと怒られた。
そのときだった。
一瞬、閃光が走った。
「な――――」
何かを言う間もなく、爆音が上がる。次いで悲鳴も。
「ど、どうしたの?」
フレイがキラの腕を引いた。
その声の響きには、紛れも無い恐怖ととまどいがある。
当然だ。
フレイには、思い出したくない記憶がたくさんあるはずだから。

怒号、泣き声、あたりはパニックだ。
逃げ惑う人々の波のひとつが、キラの肩にぶつかった。
粉塵が少しおさまると、幼い少女が、落ちてきた建物の残骸に足を挟まれて動けなくなっていた。
泣きじゃくる少女、だけど誰もが逃げることに必死で見向きもしない。
どうやら近くの建物が爆発したらしかった。
爆発はこれで終わりではないかもしれない。
この近くにいては、危ない。
自分たちも早く逃げなくてはいけない。
だけど。


「怖い?」
キラは尋ねた。
足元に、溶けたアイスがふたつ落ちている。
フレイは首を振った。
「だって、あなたが私を守るんでしょ?」
その声の響きには、紛れも無い――――信頼と愛情が。
そう、キラはずっと守っていこうと決めた。
だから戦うのだ。
二人は1秒だけ見つめ合うと、崩れた瓦礫へ駆け寄った。

 

モドル