ちょっと聞いてくれよ、トリィ。
この間、フレイに会ったんだよ。フレイ。
夏真っ盛りって感じのすげー暑い日でさ。
そしたらなんかフレイがいきなり「プールに行きたいな」って言い出したんだよ。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
俺は悲しみをこらえつつ「キラと行けば?」って答えた。
そしたら「嫌」って言われたから、「君はキラのことが好きなんだろぉ!?」って言ってやった。
「うん」
即答ですよ。
少しぐらい葛藤しろよ。ここは、違う違わないのやりとりをするべきなんだよ。
でも俺は大人だからぶちぎれるのは我慢した。黄色いサングラスは伊達じゃないってことだ。
「じゃあなおさらキラと行けよ」
「だってキラって過保護なんだもの。危ないからあれやっちゃダメこれやっちゃダメ、あげくには僕のそばを離れるなって。ちっとも遊べないわ」
結局のろけかよ。
つまりキラと一緒だと、なんだかんだ言ってもフレイはキラのそばにいちゃうんだな。このあたりは惚れた弱みってやつだ。
で、俺ならそんなこともないし、適当に遊ぶにはちょうどいいと。
ねえ、俺ってなんなわけ? もう今となっては死語のはずのアッシー君、てやつですか?
「サイ……お・ね・が・い」
語尾にハートマークつけて、とどめに耳に息吹きかけやがったよこいつ。
俺はうっかり男にとってのドリーミングな瞬間ってやつに引き込まれた。
あ、胸の谷間が見える。もちろんノーブラだ。うっそマジかよ。このために薄着で来たんじゃあるまいな。
フレイは俺の腕に、自分の腕を絡ませてきた。ちょうどふくらみに腕があたるじゃないか。
どこで覚えてきたんだそういうテク。
……そういやこのごろ15歳とは思えないほど色気がどんどんアップしてるし。キラか。キラなのか。


でもっていつの間にかプール行くこと決定。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで泳げたもんじゃない。
おまけに男どもがこっちをちらちらうかがってるわけ。
で、よく見たらなんかその視線の先にフレイがいて、ビキニを着てるんだよ。
そりゃフレイは美人だし、胸でかいし、スタイルいいし、おまけにビキニ。
男としては見たくなる気持ちもまあわからないではない。
でも隣にこんないい男がいるんだから、お前らの入る隙間はこれっぽちもないってことぐらいに気づけ。男どもは、すっこんでろ。
「サイー、日焼け止め塗ってー」
そんときフレイが俺を呼んだんだ。
純真な笑顔で手を振っているフレイはありえないぐらい可愛かった。しかもビキニ。
まぶしすぎる。俺はサングラスをかけてて良かったと思ったよ。
焼きたくないので、塗るのはサンオイルではなく日焼け止めだそうだ。
なんつーか、フレイの背中はすべすべで滑らかでさー。これぐらいの役得、罰は当たらないよな?
で、やっと泳げるかと思ったら、向こうのほうでなんか黄色い悲鳴が上がったんだよ。
そこでまたぶちぎれるかと思った。
いったいなんだよ。
フレイもそう思ったらしい。
なんかこっちに向かってくるっぽかったから、見てみたんだよ。
そしたらどうやら女数人に男が一人、囲まれて歩いて来るんだ。
「連れがいるから……」とかなんとか聞こえてきた。その声になんか聞き覚えがあってさ。
「キラ!?」
フレイが叫んだ。
「フレイ!?」
キラも叫んだ。
俺、どうすりゃいいのよ。ここは叫んどくべき?
あーやべ。キラ、こっち見てるよ。黒いオーラを感じ取って俺の背中に大量の汗が流れた。
あのとき俺は死を覚悟したね。
「なんでこんなとこにいるの? しかもサイと一緒に
あ、強調されたよ。もう逃げられない。
「キラこそ、なんでいるのよ! しかも連れって誰!?」
「カガリ。今元気に泳いでるあれがそう」
キラはプールに走る水柱の先端を指差した。す、すごいな。
「……なんであの子がキラとプールに来なきゃいけないのよ」
フレイの声にはあからさまなとげが混じってた。
ちょっと気分良かった。
「だって、アスランと一緒だと危ないからあれやっちゃダメこれやっちゃダメ、あげくには俺のそばを離れるなってんでちっとも遊べないってカガリが言うから」
俺はこのときちょっとキラに共感抱いたよ。
キラ、コーディネイターとナチュラルは分かり合えるよな?
だがキラはそうじゃなかったらしい。
なぜならキラは俺を見つつこう言ったからだ。
「フレイ、僕言ったよね? もう僕以外の男の前で水着着るなって」
俺は赤色反転するかと思った。
「それとも、嫌がるフレイを君が無理やりプールに誘ったのかな? そういう風に見えなくも無いけど」
見えるかぁー!!
「キラ、お前……」
「やる気? 本気でやったらサイが僕にかなうわけ無いだろ」
「うっ……うあ゛ぁあ ・゚・(@台⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ
「とにかく帰るよ、フレイ」
キラのせりふに今度はフレイがぶちぎれた。
「なによ、怒ってるの? あんたが!? 私を!?」
「フレイ!」
「ひどいのはキラのほうでしょ! 海に行ってもてて、プールに来てもてて、すぐナンパされて……! だから……!」
やっぱりのろけか。
フレイの涙にキラも心動かされたらしい。で、俺の涙は無視かよ。
「フレイ……もう帰ろう。僕たち、一緒に来る相手を間違えたんだ。今度は二人でどこかに行こう」 
「なによ、なによそんなの!」
二人は俺にかまわず修羅場を演じててさ。
俺に言わせりゃ痴話げんかだけどな。
キラの周りにいた女たちはいつのまにかどこかに行っちゃってたよ。そりゃそうだ。
カガリは相変わらず水しぶきをあげてクロールしてるし。
けっ。
得意げな顔して何が、どこかに行こう、だ。
お前は本当にどこかに行きたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、フレイと二人になりたいだけちゃうんかと。
だいたい水着ごときでがたがた言ってんじゃないっつの。
フレイの幼馴染の俺から言わせて貰えば今、フレイに一番着せたいのはやっぱり、
浴衣、これだね。
紺地に赤い花の浴衣。これがお兄ちゃんとしての見立て。
紺地ってのは大人の色気が多めに入ってる。そん代わり子供度が少なめ。これ。
で、それに大輪の赤い花(牡丹)。これ最強。
しかし俺は以前、フレイと花火大会に行ったときこれを頼んで嫌がられた。
素人にはお勧め出来ない。
まあキラは、フレイと図書館にでも行ってなさいってこった。
「僕、フレイの浴衣が見たいな」
っておい。
「キラ、私……」
「帰ろう?」
「うん……」
ちょっと待て、俺はどうなる。
せめて一言言ってやろうと思ってさ。
「キラ、俺お前に話が……」
「ごめん、帰ってから聞くよ。電話で


……。
あー、切ないなー。
人生ってなんだろうな。
トリィだけだよ、俺の話聞いてくれるの。
あ、この話はお前のご主人様には内緒な。って、言えるわけないか。
「トリィ」しか言わないもんな、お前。



サイは知らない。トリィにはアスランによって盗聴器がつけられていることを。
サイは知らない。その盗聴器でキラが一部始終を聞いていたことを。
サイは知らない。この後に起こる血の惨劇を……。

 

モドル