きらめく太陽、青い空、白い雲、地面に焼きつく濃い影、そして薄着の女の子たち。
季節は夏だった。夏と言えば海。海と言えば水着。
僕はフレイを海に誘うことにした。ぶっちゃけフレイの水着が見たかった。
僕だって健全な16歳だし、まあ、男のロマンってやつだね。
「一緒に海に行こうよ」って言ったら「今水着持ってないわ」って言われた。
それじゃ意味が無いので(僕的に)、僕は『フレイに水着を着せようプロジェクト』を発動した。
早い話が『無いのなら 買えばいいじゃん デパートで』ってことなんだけど。
そうと決まれば善は急げだ。僕はさっそくデートの約束を取り付けた。
で、今に至るわけですが。
僕はフレイの支度を待たされていた。
僕とフレイは一緒に住んでいるので、同じ待つでも外で待ち合わせして
「ごめん、待った?」「ううん、今来たとこ」
じゃないのがちょっと残念だ。
フレイの家はお金持ちだったから、ヘリオポリス以外にもあちこちに別荘を持ってた。
だけどお父さんも死んでしまって誰もいない家に一人で住むのは寂しいだろうから、僕は「うちに来る?」って訊いたんだ。
あのときのフレイの顔を僕は一生忘れないだろう。
僕は思い出して幸福にひたることにした。
そのときドアが開いて支度を終えたフレイが出てきた。
「お待たせ、じゃあ行きましょ?」
……露出が少ない。フレイは重ね着をしていた。
僕はバリアントが直撃するよりダメージを受けた。
期待してたのに……。
「ねえ、それじゃ暑くない?」
僕は抵抗を試みた。
せめてその上着一枚だけでも脱いでくれないかな、なんて……。
「だって、お店の中ってクーラーきついじゃない。それに日焼けしたくないし……」
「そうだよね!」
1時間後、僕らは水着売り場にいた。
ここにくるまでフレイはずっと日傘を差していた。
おかげで腕が組めなかった。手すらつなげなかった。
僕は内心ものっそ不機嫌だった。
まあ、それを表に出すようなへまはしないけどね。
でも今はそんな機嫌も直って、僕の心は浮き立っていた。
それは、フレイが「ここ予想外にクーラーきいてないのね」と重ね着してたのを脱いだせいでもあるし、目の前の水着を見ながらの想像が楽しかったせいでもあった。
あれとか可愛いな……フレイに似合いそう。
フレイはスタイルいいから、大人っぽい水着にも着負けることがないし。
あ、こっちもいいな。
「ね、キラはどれが好き?」
君が好き。なんて言ったら顔を真っ赤にして「なに言ってるのよ!」とかって怒りながら照れるんだろうなあ。
すごく見たい気もしたが、ここは真面目に答えた。
「そうだな……これはどう?」
僕はおとなしめなワンピースタイプを手に取った。
はじめからビキニとか選んで、「キラって実はむっつり……」とかって引かれたら困るし。
「うん、それも結構可愛いわね。キラが好きなら、私それでもいいわよ」
計画失敗!!!
なんてことだ。
このままではダメだ、なんとか現状を打破する手を考えないと。
何かないか、と探した僕の目に試着室が飛び込んできた。
よし、これだ。
「フレイ、いちおう試着したほうがいいんじゃない? 着てみないとわからないことってあるだろうし」
「お客様」
うわびっくりした。
いつの間にか僕たちの後ろには店員さんがいた。
僕に気配を悟らせないとは、この店員、できる。
「これ試着できますか?」
フレイが店員さんに尋ねた。
「ええ、できますよ。どうぞ」
にこやかに店員さんは答えた。こういうのを営業スマイルって言うんだろうな。
「じゃあキラ、ちょっと待ってて」
フレイの姿はカーテンの陰に消えた。
僕の好みに合わせようとしてくれているのは素直にうれしい。
だけど僕の目標はもっと上のところにあるんだ。
そりゃワンピースもパレオもタンキニも可愛いけど、男としてはやっぱりビキニ。断然ビキニ。
しゃっとカーテンが開いてフレイがでてきた。
たぶん僕の周りには盛大に花が飛び交ったと思う。
さっきあんな風に言ったけど、ワンピースもいいかも、とか一瞬考えてしまった。
なんていうか、ストイックで清純な魅力っていうの?
「……どう?」
「すごくいいよ」
僕は心の底からそう言った。
うん、こういうのもありだよね。
「でもこれ、サイズがちょっときついのよね」
「え?」
確かに、フレイは胸の大きいほうだから、ちょっと苦しそうだった。
「すいません、これ以外のサイズないですか?」
「あー、そのタイプはサイズそれだけですね、申し訳ありませんが」
「そうですか」
ということで終了。次。
僕はどうやってさりげなくビキニを薦めることが出来るか脳細胞をフル回転させた。
そのとき神の声がくだった。
「お客様はスタイルがよろしいですから、こちらなどお似合いになられると思いますよ」
そう言って店員さんが出したのは、そう、ビキニ。
あんた漢だ!!
僕は店員さんに惜しみない賛辞を送った。
「それも試着できます?」
「どうぞどうぞ」
フレイはビキニを持ってまた試着室に入ってしまった。
僕は待っている間店員さんとほのぼのな会話をしていた。
「すごく可愛い方ですね。彼女ですか?」
「ええ」
彼女以外の何に見えるってんだボケ、なんて別に思ってないよ。
ビキニを着たフレイがカーテンを開けた。
形のいい胸が、艦長みたく揺れそうなほどで、すらりとした足がとてもセクシーだった。
僕は後ろでこっそりガッツポーズをした。
露出万歳。露出最高。ビバ露出。
いやーいいよね。目の保養だよ。
「それ、とっても似合ってるよ。かわいい」
フレイもまんざらでもなさそうだ。
「キラ、こういうの嫌いじゃない?」
大好きです。
とはさすがに言えないので控えめかつ的確に。
「うん、いいと思うよ」
「そうね……じゃあこれにしようかな」
僕は勝った。
来週の海が楽しみだな。