キラはソファの上にあったクッションをひとつとると軽く抱きしめるようにしながら、それが置いてあった場所に座り込んだ。
重みでスプリングが沈む。
「はぁ……」
「どうしたんだ、ためいきなんてついて」
ほら、とアイスコーヒーを手渡しながらアスランは問うた。
カラン、と氷が鳴り、鉢植えの観葉植物が空調の風でそよと揺れた。
久しぶりに会う、弟分にも似た親友はなにやら悩みでもあるのか、来たときから(ひょっとしたら来る前からそうだったのかもしれないが)ずっとため息ばかりをついていた。
「困ったことがあればいつでも相談に乗るぞ?」
アスランは言った。
キラはいつも痛みや苦しみを自分の内側に隠してなかなか打ち明けることがなく、溜め込んでしまうのだ。
泣き虫で甘ったれで、そして自分自身を責めてばかりいたキラ。
もっと他人に頼ったっていいのに――――アスランはそう思う。
自分ひとりで戦うのは、つらい。
アスランは出来る限りキラの力になりたかった。
「うん……」
歯切れの悪い返事をして、キラは再びため息をついた。
言おうか言うまいか迷っているようで、指先でストローをもてあそぶ。
しかしキラはやがて沈黙に耐えられなくなったのか、顔を上げてアスランを見た。
「あのさ……僕、変なこと言うかもしれないけど。聞いてもらえるかな」
「なんだ?」
キラは意を決したように話し出した。

「僕、フレイと同棲してるだろ。それで……その、彼女のこと優しくしてあげたい、守ってあげたいって思ってるんだ」
「……それで?」
なんだ、単なる惚気かとアスランは少し脱力しつつ続きを促した。
「それで……ほら、夜のこととか……も」
「夜?」
夜がどうかしたのだろうか、アスランは考えた。
夜……?
「うん、優しくしようって思うんだ、いつも思うんだけど、でも……なんていうか、優しくしようって思うのに、優しく出来ないっていうか……」
キラは照れているのか単に言いにくいだけなのかわからない微妙な表情で言った。
だんだんアスランには話が見えなくなってきた。
キラは首を振って続けた。
「ううん、そうじゃないかな……今のところ優しくは出来てるんだ。頑張って抑えてるから。でも」
「…………?」
「いつ暴走してしまうかわからなくてさ。フレイを怖がらせたくなんてないのに、傷つけてしまうんじゃないかって……」
キラはだんだんと、アスランに理解不能なことをぶつぶつしゃべりだしはじめた。
自分の世界に入りかけているキラに、アスランはストップをかけた。
「あー……キラ」
「何?」
「さっきから俺にはよく話が見えないんだが、もう少しわかりやすく説明してくれないか」
「あ、ご、ごめん……」
キラはクッションを抱えなおすと、再び話し出した。
「だから、夜エッチするとき、フレイに優しくしてあげたいんだけど」
「エッ……!?」
アスランはこれ以上ないほど面食らった。
「でも、同時にめちゃくちゃにしてみたいとも思っちゃって」
「め、めちゃくちゃ!?」
「泣いて欲しくないのに泣かせたいって思って、抱きしめたいのに引き裂きたいって思う自分が、なんか変な気がして」
「……」
つまりキラは彼女とのセックスについての相談を持ちかけてきたのだ。
もうアスランは絶句するしかない。
彼はまだ女性経験が無かった、せいぜいがキスどまりである。
それなのにキラはかなり慣れた口調で平然と、なんでもないように彼らの夜の営みのことを話している。
キラは自分の弟分であったはずなのに、いつのまにか自分よりかなり遠くに行かれてしまったようだ。
不安そうに見上げてくるキラ。
「ねえ、やっぱりそれっておかしいかな、アスランはそういう風に思ったりする?」
どう答えたらいいものか。
たとえ経験は無くても、アスランにも見栄とプライドの持ち合わせぐらいある。
そして出てきた答えはこれだった。
「そうだな……男なら当たり前なんじゃないか?」
なんとも当たり障りの無い言葉である。
だがキラはその一言で目からうろこが落ちたかのように瞬きをした。
「なるほど……さすがアスランだね。ありがとう、ちょっと気が楽になったよ」
「いや、別に。ははは」
その笑いが乾いていたことには幸いキラは気づかなかったようだ。
「良かった、実を言うとね、僕もしかしたら自分は変態なんじゃないかって心配だったんだ」
ちなみにHとは本当はセックスのことではなく、変態のイニシャルからとったものである。
( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー
キラはアスランに自信づけられて安心したように笑った。
「じゃあ、今度怒らせない程度に少し意地悪してみようかな」
嬉しそうにそう言うキラに、アスランは
「そ、そうか。いいんじゃないか」
と内心冷や汗モノで調子を合わせた。
俺だっていつか童貞捨ててやる、と彼が固く決意したかどうかは謎である。

 


そして、家に帰ったキラは、その夜のせいでフレイに当分の間おあずけを言い渡されるのだった。

 

モドル