フレイは幾度目かの寝返りをうった。
空調のせいで暑くはないが、薄いシーツをまとっただけの裸で、ベッドに入っている。
眠れない。
寝苦しいわけではない。
フレイはもう一度寝返りをうち、そのさい隣に眠る少年の肩に軽くぶつかってしまった。
あ、と彼を見たが、少年は深い眠りに落ちており、一向に目覚める気配もない。
(なんだかむかつく)
それが理不尽な怒りだということはわかっているが、だからといっておさまるものではない。
あんなの見なければ良かった。
フレイは思った。
たまたまつけていたTVに、たまたまやっていた映画。
それが、結構ハードなホラーだった。
いじっぱりで強がりな彼女は、自分から「怖いので消して」などと言えるはずもなく、結局その映画は最後までしっかりと流れてしまった。
彼女は今、怖くて眠れないのだ、つまり。
目を閉じると何かが部屋の隅に立っているような気がして、落ち着くことが出来ない。
そのときふと、冷蔵庫の中にワインが入っていたことを思い出した。
アルコールの力を借りれば眠ることができるかもしれない、そう考えてフレイは身体を起こした。
バスローブをてばやくはおると、周囲を気にしつつ、こわごわとドアを開けて部屋を出た。
電気をつけ、ようやく人心地がついた気がした。
青灰色の画面に、中世ヨーロッパ風の村で起こる、亡霊の呪いによる惨劇。
全体的に色みがない分余計恐怖を煽る。
(もう! 思い出さないの!)
フレイは頭を振って嫌な考えを追い出し、ワインをグラスに注いだ。
忘れたくて次々と杯を重ねた。
一応未成年なのだが、そんなのはつまらないことだと気にしなかった。
そして、寝室に戻ろうと思ったとき、彼女はすっかり出来上がってしまっていた。
立ち上がると足がふらつき、景色がとてもきれいに目に映る。
気分もなんだか高揚して、これなら気持ちよく眠れる気がした。
ベッドに入って、目を閉じようとしたそのとき、キラがこっちを見ているのに気づいた。
起きてしまったのか。

 

目が覚めたらフレイがいなかった。
起き上がって探しに行こうかと思ったらドアが開いてバスローブを着たフレイが戻ってきたので、キラは安心する。
「どうしたの?」
キラは、何処に行っていたのか、と目で尋ねる。
フレイは素直に答えた。
酔っているせいで普段と思考回路が少々異なっているようだ。
「お酒、飲んでたの」
「なんで?」
「だって、怖いし、眠れないし、なのにキラは寝てるし……」
言っているうちに先ほどの恐怖がよみがえったのか、フレイは肩を震わせた。
「怖いって……あ、さっきの映画?」
キラは思い至ってそう言った。
「……っそんなんじゃないわ!」
むきになってフレイは否定したが、その目にはうっすらと涙がにじんでいた。
よっぽど怖かったのかな、とキラは思った。
「私は全然眠れないのに、キラってば気持ちよさそうに熟睡してるし。むかつくから、キスしてやろうかと思ったわ」
「え。」
「でももう起きてるからいいの」
フレイは自己完結してしまったようだ。
どうしてそこでそういう思考に達するのかよくわからないが、キラとしては少し納得がいかない。
さらり、とシーツが音を立てる。
「キスは、なし?」
「なしよ。だってあなた、起きちゃったじゃない」
フレイは当然だといわんばかりにそう答える。
「……じゃあ寝る」
落胆したキラの声に、フレイは不思議そうに尋ねた。
バスローブを脱いだ素肌の肩。
真白い、シーツの中の身体。
「して欲しかったの?」
「うん」
臆面もなくキラは答え、それを聞いたフレイの顔に幼い子供のような笑みが浮かんだ。
酔っているせいだとわかってはいるが、その笑顔にキラは無性にどきどきしてしまう。
「じゃあ目をつぶって。そうしたらしてあげるから」

それからほどなく、二人は同じ眠りに落ちた。

 

 

モドル