――――君はいつもそうやって、僕を振り回すことばかり言う。


「寒いから、あっためて?」
フレイにそう言われたキラは数秒、その言葉の意味するところを考えた。
見事なほどに寒い夜、そろそろ二人は就寝する時間。
フレイは下着姿で、キラより先に毛布に包まっている。
その肩が少し震えているように見えるのは、キラの気のせいではない。
そりゃあこんな夜にセミヌードでいれば寒いに決まってるよ、とキラは
「寒いなら何か着なよ……」
至極まともなことを言ってはみたが、あっさり却下された。
「私、寝間着を持ってないもの」
「え?」
「うちにいたころは、あったかかったし、たいてい裸で寝てたわ。それに、裸で寝るのは身体にもいいっていわれて」
「そ、そう……」
キラはうっかり想像しかけてしまい、慌てて鼻を押さえた。
「じゃあ、何か別の服でも……」
「嫌よ。寝苦しいじゃない」
フレイは頬を軽く膨らませた。
そういう表情も実に可愛らしく、キラを翻弄するのだ。
「だから、キラが一晩中ぎゅーっとしてて。そしたらあったかいでしょ」
なんでもない顔でとんでもないことを言う少女に、キラは図らずも赤面した。
そりゃ、キラとフレイはすでにいわゆる男と女の関係になってはいるし、同棲生活をはじめてからも随分たつ。
それでも羞恥心が消え去ったわけではない。ましてや彼らはセックスに慣れてしまった大人でもない。
15、6の少年少女という若さも手伝って、二人ともどちらかといえばまだ初々しいお付き合いのつもりでいるのだ。
(アスランやカガリからすれば、「初々しいだぁ? どの口がそれを言うか」といった感じなのだが)
だからキラが顔を赤くするのも当然だし、フレイが無邪気に提案したのも当然なのだった。
そう、フレイにはそういう意識は全くない。だからこそ性質が悪いのだが。
彼女は自分の『女』を自覚しているくせに、ときどきそれを忘れてしまうらしい。
自分に正直で、そのときそのときによって最大限に『女』を利用したり、自分の性にまったく無頓着になってしまったり。
そして今は後者だ。
キラにとっては、ある意味こちらのフレイのほうが強敵である。
本人がわかっていないぶん、手に負えないからだ。
「ねえ、いつまでもそこに立ってると風邪引くわよ、キラ」
「誰のせいだと……」
「何か言った?」
フレイはだんだん機嫌を損ねてきているようで、キラとしても覚悟を決めなければならなかった。

頑張るんだ僕。たかだか6時間半耐久レースだと思えば……。

キラは自分の欲望と戦う意志を固め、毛布にもぐりこんだ。
とたんに身体に抱きついてくる細い腕に、早くも挫けそうになるキラ。
「キラも抱きしめて」
「う、うん……」
「ふふ、あったかい……」
お願いだから、僕の苦労もちょっとは察してほしい。
キラは心の中で泣きつつ、理性を繋ぎとめるのに必死だった。
ここで襲ってしまったら、間違いなく嫌がられる。それだけは避けなければならない。

こうして、キラの苦しい夜が始まった。

 

モドル