隙間がどうしてもうまれてしまう。
この隙間をどうやって埋めようか、とキラはいつも考えている。
この感情に一番似ているのは食欲だ。だが完全に同じではない。
だからキラは、腕の中のフレイの首筋に噛み付いていいものだろうかと毎回迷うのだ。
白く、妖しく誘うその場所に流れる血はとても甘そうに思えて、有名な吸血鬼の話をキラに思い出させる。
吸血鬼は血を吸うことでその人間を自分のものにし、永遠の時を生きるのだ。
でも残念なことに自分はヴァンパイアの類ではないから、フレイの柔らかな肉に軽く歯を立てて、甘い声を上げさせるにとどめておくことしかできない。
どんなに肌を重ねても二人はやっぱり二人で、一人にはなれなくて、どうしてだろうキラは、行為のたびに幸せと不幸せがいっぺんに襲ってきたような、そんな気持ちにさいなまれる。
二人を隔てる汗も空気も身体を覆うこの薄い皮でさえもわずらわしい。
「ねえ、食べていい?」
「もう食べてるじゃない」
この身体を余すところ無く味わえたらどんなに幸福だろう。
もちろん本当にフレイの肉を食べたいわけではない。自分にカニバリズムの趣味は無い。
喩えとしてそれが一番しっくり来るだけだ。
「かわいい、キラ。小さな子供みたい」
彼女の目に自分はどう映っているのだろう。
一応自分もいい年をした男なわけで、そんなことを言われると少しへこむ。
今の彼女は、自分との距離より下に敷いたシーツとの距離の方が近い。
物にすら嫉妬する自分はやはり彼女の言うとおり小さな子供か。
曲線をなぞり、自分よりも小さく柔らかいその肉体にしがみつく。彼女の前ではなにも取り繕わない。
細胞レベルで求めている。ただひたすらに。
貪るだけでなく何か自分も彼女に与えられればいいのだけど。
「好き」
口に出した言葉はとてもしっくりきたので、きっとたぶん正解なのだ。
「好きだよ」
「なあに突然」
フレイは少し目をいつもよりもっと大きくして、それからキラの頭をかき抱いた。
「好きよ」
その言葉だけで達してしまいそうなほど。脳髄に叩き込まれるような快感。
抗う術など無い。理由も無い。キラは本能に忠実に従う。
彼女も同じものを共有しているだろうか。そうならいいのに。
こんなに素晴らしい感覚を分かち合えないのはつまらない。
「気持ちいい?」
「……バカ」
潤む目で睨むように言うフレイ。肯定ととってかまわないだろう。
「キラ、泣きそうな顔してる」
「僕も気持ちいいからだよ」
「もう、ほんとにバカ!」
恥ずかしいのか真っ赤になってバカバカ、とフレイは繰り返す。
そうか、泣きそうに見えるのか、とキラは思った。
自分から見た自分と他人から見た自分にさえ隙間があって。
二人が別々の人間である限り、隙間はこれからさきもずっと埋まることは無いだろう。
それを理解したうえで、それでも隙間をなくすためにありとあらゆる無駄な努力をしてみるのもいいかもしれない、とキラはフレイの首筋に舌を這わせた。
とりあえず今は、不幸せより幸せの方が勝っているから。






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