足元にじゃれていた子犬を見送りながら、フレイは無邪気に笑った。
「犬って可愛いわよね。私、好きだわ」
「……飼いたいの?」
少し拗ねた口調で言ったのを気づかれたのだろうか。
フレイの目がいたずらっぽく光る。
「なぁに、やきもち?」
「べつに、そうじゃないよ」
嘘だ。ほんとうは妬けた。
けれど子犬に妬くなんて、かっこわるくて言えやしない。
「ふーん……? じゃあ、そういうことにしといたげる」
フレイの目の輝きは消えない。
きらきらして綺麗だとは思うけれど、同時に嫌な予感が胸をよぎったりなんかもして。
「飼いたいって言ったら、飼ってもいいの?」
「ダメ」
即答していた。
むきになっていたわけじゃないけど、それを否定しても信じてもらえないだろう。
実際自分でも、かなり大人気ないと思う。
「僕、猫派なんだ」
そう言いながら、フレイは猫に似ている、と思った。
気まぐれで、プライドが高くて、でも実はさびしがりやで、甘えるときは照れもせず擦り寄ってきたり。
そんなところが。
「ざーんねん」
フレイはキラの腕を取りながらくすくす笑うので、あまり残念そうには見えない。
これはまたからかわれたかな、と眉間のしわを深くしてみれば。
「冗談よ? それに私、犬ならもう飼ってるもの」
怪訝な顔をしたら、フレイは楽しそうに語ってくれた。
大型犬なの。茶色くて、毛並みが柔らかくて気持ちよくて。
構ってあげないと耳がしゅんってなっちゃうけど、遊んであげればすぐにまたしっぽがぱたぱたして、可愛いのよ。
「それって……」
「名前はキラっていうの。いい名前でしょ? 世界で一番大好きな名前だわ」
「喜んでいいのか落ち込めばいいのかわからないよ」
男としては――特に恋人としては、情けないことも言われたけど、さりげにとても嬉しいことも言われて、複雑だ。
「あら、私が飼い主じゃ不満?」
勝ちを確信して得意げな彼女に負けるのが悔しかったので、わん、と言ってキラはフレイの唇をぺろりとなめた。
フレイは目をぱちくりとして、
「いきなり何するの、キラ」
「犬だからなあ」
「しつけがなってないわね」
「じゃあ、フレイのしつけ方が悪いんじゃないの?」
してやったり、と言ってやれば、形勢はいつのまにか互角だ。
「……マテ」
「おかわりのほうが嬉しいんだけど」
と、キラはもう一度フレイに口づけた。
モドル