フレイはいらいらしていた。
唇が切れた。
綺麗に伸ばしていた爪が割れた。
おでこに小さなにきびが出来た。
それから、体重が増えていた。2キロほど。
「キラ。胸触るの禁止ね」
「は？」
突然言われてもキラには意味がわからない。いや言葉どおりの意味なんだろうけど。でも理由がわからない。
「最近ブラがちょっときついの」
「胸が大きくなったってこと？　嫌なの？」
キラは首をかしげた。
女の子は胸が大きくなるのを喜ぶものだとばかり思っていたのに。
「嫌よ！　別にこれ以上欲しいとは思ってないもの。それにあんまりサイズが大きいと、可愛い下着がないのよ」
だから胸に触るの禁止ね、とフレイは言った。
あの柔らかさを楽しめないのは寂しい。
「……いつまで？」
「当分」
それでキラは、フレイの機嫌が直るまでだと判断した。
うまくいけば明日にもお許しが出るかもしれないが、下手をすると1ヶ月以上長引くだろう。要するに、読めないのだ。
「胸以外ならいいの？」
「そうそう、キスもやめてね。今唇が切れてて痛いから」
「え」
それは結構つらいかも。
「あとは――、あ」
ぴくりとフレイの肩が動き、何かに気づいたように瞬きをした。
「どうしたの？」
「ごめんなさい、やっぱり当分『何もしないで』」
キラに何かを言う暇も与えず、くるりと振り返ったフレイはそのままとある場所に向かう。
どうりで妙にいらいらしたり肌の調子が良くなかったり体重が増えたりブラがきつかったりしたわけだわ。
爪は関係なかったけど――……。
そう考えて、手をつなぐことは許可しよう、とフレイは小さく笑みをこぼしたのだった。




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