怒りが収まらない。何で怒っているかはもうどうでもいい。
肝心なのは「怒っている」その感情それ自体であって、原因じゃない。
けれども原因が何なのか知りたい人もいるかもしれないから、しいて原因を言っておくなら、目の前にいるこのキラだ。
フレイはきっ、ときつめに彼をにらみつけた。
負けじと彼もにらみ返してくるので、ますます怒りのボルテージは上がる。
「なによ……」
なによなによなによ。
キラなんか全然わかってないのよ。もう最っ悪。
「なんで私、あんたと付き合ってるのかしら」
ぽろりと言ったら、つられるようにどんどん言葉があふれ出した。
キラもむっとした顔をする。
「キラなんか、スケベだし、調子いいし、成績いいくせにバカだし、女の子に弱いし、うじうじしてるし、泣き虫だし、どうしようもないじゃない!」
「なっ……! そこまで言う!?」
「言うわよ!」
スケベだけど私のこと好きって言ってくれるし、調子いいけど優しいし、バカだけど可愛いし、女の子に弱くても私を見ててくれるし、うじうじしてても明るくふるまおうとするし、泣き虫だけど我慢するし、ほんとは。
「私は意地悪だし、意地っ張りだし、気が強いし、こんなだから、だから……」
だんだんと語尾が弱くなっていく。
悪いところばかりをあげたら、自分の心の中で全部に反論が返ってきた。
絶対に表情を見られたくはなくて、後ろを向いた。
「だから、どうしようもないあんたは、どうしようもない私で我慢すべきなのよ」
「フレイ?」
「あんたには、私くらいでちょうどいいのよっ!」
世の中に他の女の子がたくさんいることはわかってる。
でもあなたにふさわしいのは絶対に私だけだと思っていたいの。
素直じゃなくて、かわいくないことしか言えないけど。
「……分相応でしょ」
膨れた頬は、きっと真っ赤になっている。
「……ううん」
ゆっくり首を振って、キラは微笑んでくれた。
「僕にはもったいないくらいだよ」
ごめん、ね。
テーブルの上には、キラが「この子すごく可愛いね」と言ったモデルのページが開いたままのファッション雑誌が載っていたのだけれど、風がぱらぱらとめくってくれた。
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