フレイはとても綺麗な赤い髪をしている。
だから僕は彼女の髪を見るのが好きだ。
僕は彼女の髪に指を差し入れる。
見るだけじゃなくて触るのも好きだから。
彼女の注意は、目の前の鏡から後ろに立つ僕へと向く。
彼女は化粧の最中に邪魔をされるのは慣れっこだが、だからといってあまり許容してはくれない。
「なに」
鏡の中の僕の目を睨んで、少し嫌そうな顔をする。
だから僕も鏡の中の彼女の目を見て、笑う。
「綺麗だなって思って」
そしてそのまま髪をすく。
彼女は髪を丁寧に梳かし終わったあとだったので、だから僕の指はどこにもひっかからない。
下まで到達して、するりと抜けてしまう。
手触りが良くていい匂いがする。
今は僕と同じシャンプーを使っているはずなのに。
だからこれは彼女の――女の子の特有の匂いなんだろう。甘いお菓子みたいな。
フレイはとても可愛い声で僕を呼ぶ。
だから僕は彼女に呼ばれるのが好きだ。
「キラ。くすぐったいんだけど」
「ごめん」
「キラ」
「ごめん」
謝るだけでちっともやめようとしない僕を軽くつねってから、もう、と言った。
フレイはとても可愛く笑う。
だから僕は彼女の笑顔が好きだ。
笑った口元があまりにキュートで、だから僕は胸をやられてしまう。
彼女はきっと、僕の心臓の位置をよく知っている。
「ちょっと、口紅落ちるからやめて」
「またつければいいよ」
「あなたにもうつっちゃうわよ」
「うつったら落とせばいいよ」
最近の化粧落としは効果に優れている、だから心配することはない。
そしてやっぱり僕の唇には赤い色がついて、やっぱり彼女は鏡を見て怒った。
「あーもう、ぐちゃぐちゃになっちゃったじゃない、キラのバカ。やり直しだわ」
フレイは怒った顔もとても可愛い。
だから僕はもう少しだけ怒らせてみたくなる。
「でも受け入れた君も共犯だと思うんだ」
大方の予想通り頭をはたかれた。
フレイは照れ隠しに僕をぶつことが多い。
だから僕はよけないでぶたれている。
……言っておくけれど、僕はマゾじゃないよ? 念のため。



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