「ねえ、闘牛って知ってる?」
「はぁ?」
どうして今ここでそんな単語が出てくるのだろうと、フレイは驚き半分呆れ半分で声を上げた。
なんたって二人は今ベッドの中なのだ。
そして直前まで何を話していたかというと、
「どうしてそういつもやりたがるの!? 少しは我慢しようとか、そういう殊勝な心がけってものがあったっていいでしょ」
「フレイこそわかってない! 僕が普段どれだけ鉄の理性で耐えてると思ってるのさ!」
「あなたのどこが鉄の理性だっていうのよ!」
「何言ってるんだ! キミのお預けっていう極悪非道な仕打ちを必死に耐え続けているじゃないか!」
「極悪非道……へーぇ、ふーん、そぉ。そういう風に思ってたんだ」
「あっ、え違っそれは言葉の綾っていうか口が滑ったっていうか」
とまあこういうくだらない舌戦を繰り広げていたわけで。
そしてその後つむじを曲げたフレイをキラが子犬の目攻撃とよく回る口(流石コーディ)で口説き落として、なんとかベッドの中で二人、という今に至るのだが。
その流れで何故に闘牛の話になるのだ。
「知ってるけど……こういうとき普通愛してるとか好きだよとか甘い言葉を囁くでしょ。なんでいきなり闘牛なのよ」
「いや、さっき言ってたことを考えてたんだ。どうしていつもこんなに興奮するんだろうって」
上に乗りながらそんなことを言う男を、ばっかじゃないの、とフレイは冷たい目で見やる。
「闘牛って、赤い布で牛を興奮させるあれでしょ。実際に見たことはないけど」
「ううん」
キラの指がフレイの後頭部に差し込まれる。指の隙間から、花のようなシャンプーの香りが微かにこぼれた。
その感覚に小さくぞくりとしながら、フレイはキラと目を合わせた。キラは笑っている。
「違うの?」
「違うよ。牛にとっては布の色は何でもいいんだ。目の前でひらひら動くものに向かっていくだけだから」
「じゃあ、どうして赤い布なの」
「赤はね……人間を興奮させる色なんだよ」
そう言って髪の毛をいとおしげに撫でると、キラは今度はいじわるな笑みを浮かべた。
「だからさ、僕がいつもしたがるのは、フレイの髪の毛のせいでもあるんじゃないの?」
「……あなたそれ、こじつけって言うのよ」
ばっかじゃないの、の上に超がついて、超ばっかじゃないの、にランクアップ(ダウンかも)した。
超ばか男は、真面目な顔つきで言い放つ。
「でも僕、フレイを目の前にするとほんとに興奮するんだけど」
「超超超超ばっかじゃないの!」
枕を振り上げようとしたフレイの手を押さえこんで、キラの笑い声がベッドの上にばら撒かれた。
「お望みなら胸焼けがするくらいお腹いっぱい甘い言葉をあげるよ」
キスしてくる唇を甘噛みして離した後に、こう言った。
「闘牛って絶対牛か人のどっちかが死ぬのよね」




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