「私があなたのことを大好きよって言ったら、あなたは信じる?」
好きな子に頬を染めながら上目遣いでこう言われたとき、ときめかなかったら男じゃない。
キラはフレイを思いっきり抱きしめたい衝動を慌てて抑えた。それはいささか性急過ぎる。
がっついてると思われるのは男としてのプライドもあるし、できれば避けたかった。
「信じるよ。だから後半抜かしてもう一回言って」
「私、あなたのこと大好きよ」
ああもう、この女の子はなんて可愛いんだろう!
今度こそ抑えが利かなくなってぎゅむうっと抱きしめてしまう。
目の前の相手も自分に対して同じ感想を持ったことを、キラは知らない。
苦しい、と軽く叩かれてようやく腕の力を緩めると、彼女は水から出たときのようにぷはっと息をついた。
「私、嫌いな人間と四六時中一緒にいれるほど心が広くないの」
「知ってる」
「でね、今日私誕生日なの」
「知ってる」
そんなのヘリポリ時代からすでにチェック済みだ。
「私の欲しいものも知ってる?」
「知って……ない」
ここ数日リサーチしようとは試みた。
さりげなく彼女に気を配ったし、会話から推測もした、好みも考えた。
けれど何を贈ったらいいのかわからなくて、結局無難なペンダントトップに落ち着いたのだ。
キラも、彼の親友ほどではないが、こういったことがあまり得意ではないので。
「何か欲しいものがあったの?」
「ええ」
きっぱりと答えられてキラはしょぼくれる。
好きな子の欲しがっているものもわからない自分が、なんだか情けなくさえ思えてきた。
ペンダントトップも出しづらくなってしまい、困り果ててキラは、助けを求めるようにフレイを見た。
「ごめん、僕フレイの欲しいものがわかんなかった。ダメな恋人でごめん」
「本当にわからないの?」
「うん……わかってたら絶対にキミにプレゼントするのに」
「誓える?」
「もちろん!」
自信を持ってそう答えれば、フレイは我が意を得たりとばかりに目を輝かせた。
……あ、れ?
「それを聞いて嬉しいわ、キラ。まだ間に合うから、私の欲しいものをちょうだいね」
「フレイ、何が欲しいの?」
それがわからないことにはあげようがないし、何よりどんな物をねだられるかわからなくて怖い。
あんまり高いものや手に入りにくいものじゃないといいなあ……と思っていたキラはフレイの言葉に目を見開いた。
「私、あなたが欲しいな」
「……は?」
数秒止まる。
それから、カシャカシャカシャカシャ、と普通の人間の3倍は速い脳内コンピューターの動く音。
理解終了。
でも一応の確認はしておこう。
「もう一回言って」
「あなたが欲しいの」
空耳じゃありませんでした神様。
キラはうろたえて思わずよろけそうになった。
「……本気で言ってる?」
からかってるのか、とフレイを見ると、フレイは悪びれた様子も無く答えた。
「すごくこのうえなく本気だけど?」
「ええと、それってひょっとしてやっぱり、あっちの意味……で言ってるんだよね」
「そうよ。私の誕生日に、私の好きなキラ・ヤマトが欲しいの」
私があなたを大好きなことを、あなたは信じるって言ったじゃない。
フレイは一回大きく目を瞑って、もう一度開いてからキラの目をみつめた。
「嫌なの?」
「嫌じゃないけど」
むしろ自分にとっては願ったり叶ったりですけど。
でもほら、普通こういうのって女の子がリボンかけて「プレゼントはわたし」とかやるだろ?
そう言うと彼女は「だからよ」と笑った。
「その逆をやってみたくなったの。だからプレゼントはあなた、ってことで。ああ、リボンをかけたいなら別に止めないけど?」
それはちょっと遠慮したい。
キラは裸にリボンを結んだ己の姿を脳内に描いて少し後悔した。
「で、くれるの? くれないの?」
どっち? と首に腕を回してくる彼女を、キラはキスとともにベッドに押し倒した。
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