死ぬのが怖くは無いのかと問うと、隣の赤い髪を持つ少女は、涙を浮かべた目でそれでも笑いながら、怖いですと答えた。あなたは?
「私は軍人だから、自分の死を考えることはよくある」
ナタルは目を伏せた。こうやって宇宙にいる今、いつだって死と隣りあわせだ。
明日、1時間後、次の瞬間にはもう死んでしまうかもしれない。
それを理解したうえで、私は死を恐れているだろうか。
黙ったナタルを見て、少女も視線を前に戻した。
「死ぬのは怖いです。でも、会えないまま会いたい相手が死ぬのはもっと怖い」
彼女はたったひとりのパイロットに会うためだけに、今一度戦場に身を置くことを決意したのだ。
ナタルはかの少年を思い出す。キラ・ヤマト。
誰よりも強く頑丈な肉体を持ちながら、誰よりも不安定に見えたコーディネイターの少年。
「私が死んだら、きっとキラは泣いてくれる。守れなかったといって、しばらくは私を思っていてくれる」
フレイは笑っている。けれど少しも嬉しそうではなかった。
ナタルが渡した連合の軍服は、まったく彼女に似合っていない。
「でも、その後できっとキラは、他の誰かを見つけると思います。私じゃない誰かを。だってあの子は寂しがりやだから。孤独がどんなにつらいことか、彼は知ってしまったから。きっともう、ひとりでは生きていけない」
「お前はそれでいいのか、フレイ・アルスター」
ナタルはあえてフレイを階級で呼ばなかった。
フレイの横顔にふわりと髪がかかる。涙の粒でさえここでは浮かび漂う。
「嫌です。自分以外の女が、キラの隣に寄り添って歩いていくなんて、本当はすごく嫌。でも仕方ないんです。これは、単なる私のエゴだから」
「……」
「それにキラにとってはきっと恋じゃなかったんです」
彼らのことを歪んだ関係だと思っていたのはナタルもそうだったので、口をつぐむ。
「死ぬことは怖いし、キラの隣にいるのが私じゃなくなるのも怖い。でも、それでも私は、彼にもう一度会って言いたいんです。伝えられないでいる方がずっとずっと怖いんです。だから今ここにいること、後悔はしてません」
それを見て、強くなったとナタルは思う。
「そうか。伝えられるといいな」
黒い宇宙は何もかもを呑み込むために口を開けて待っていた。



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