そのときキラは、ぷりぷり怒っている恋人をどうやってなだめるか、そればかり考えていた。
「ねぇ、何怒ってるの?」
「……」
フレイは先ほどからずっとだんまりで、キラの顔を見もしない。
プライドが高くなかなかに意地っ張りな彼女の性格をキラも良く知っているから、一筋縄ではいかないとは思っていたけれど、こうも無視されるのは面白くない。
第一、彼女は何故怒っているか、その原因すらキラには不明のままで、怒っているのだ。
――――いったい僕にどうしろっていうのさ。
とはいえ怒っているということだけは確かだ、なので、その怒りの程を確かめてみることにする。
「僕と口もききたくないってくらい怒ってるってこと?」
彼女はむっつりと押し黙ってそっぽを向いたままだ。
キラではない場所を睨むようなその目は斜め下、テーブルの上に乗った新聞や手紙などの郵便物を見ている。
キラは長々とため息をついて、じゃあ無理に喋らなくてもいいけど、と前置きした。
「僕が訊くことに頷いてくれるだけでいいから」
「……」
フレイはどこか恨みがましいような目をキラに向けた。
ああ、恋人にそういう目で見られることに慣れてしまっている悲しい少年よ。キラは心の中で涙を流した。
「今すごく怒ってる?」
少しの躊躇があった後、ゆっくりと顔が縦に動く。
キラは続ける。
「それは僕のせい?」
フレイは困った風に首をかしげた。おや、とキラは思う。ならば。
「僕のせいじゃないの?」
これにも前の質問のときと同じ反応が返ってきた。
よくわからない。
「僕のせいじゃないし、僕のせいだとも言える?」
今度はこくりと頷いた彼女を見て、キラのほうが首をひねった。
そんな複雑な状況、キラとしては心当たりがまったくないわけで、それゆえに対処のしようもない。
とりあえず一番訊きたいことを訊いてみることにした。
「僕を嫌いになったわけじゃない?」
最優先事項の質問に対する答えは、たっぷりの間があって、それから――――YES。
彼女の俯いた頬にかかる赤い髪、それを払いたく思ったが思い直して、キラはほっと微笑んだ。
「安心した」
フレイの怒りは大概が一過性のものだということは過去の経験からわかってはいても、嫌いだとか別れるとか、例えその場の激情に任せて言ったもので本気ではなくとも、そういう言葉を彼女の口から聞くのは嫌だった。
それに、そういうことを言って、熱が冷めたとき、決まって彼女は後悔するのだ。
キラに謝るときの彼女は本当にしおれた花のようで、雨に打たれた猫のようで、凍えた人のようだった。
今の彼女は静電気をまとわりつかせた毛糸の服のようであったけれども。
「キラの、ことは……好きよ」
ようやく聞けたフレイの声とその内容に、そんな場合ではないとわかっていても心が浮きそうになってしまう。
「でも、好きだから怒ってるの! もう少ししたら、平気になるから……きっと収まるから、だから、それまで放っておいて!」
「えっ?」
そう言い捨てると、呆然とするキラを尻目に、フレイは立ち上がって部屋を出て行ってしまった。
残されたキラがテーブルの上の郵便物の中から自分宛のラブレターを発見して、慌ててフレイを追いかけるまであと180秒。



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