騙されたふりをしてあげる。


手首を拘束される痛みにうめきながら、フレイは圧し掛かる恐怖に押しつぶされそうになった。
フレイの上の少年はもはや少年ではなくただの獣だ。しかもかなり獰猛な類の。
人が変わったようだ、と思ってすぐ、そもそもこれこそが彼の―――コーディネイターであるキラの本質なのではないかと思う。
わたしはキラの何を知っていたというのだろう、知った気でいたのだろう?
優しくしてくれたり、泣いているところばかり見てきたから忘れていたけれど、本当のキラは憎むべきコーディネイターだったのだ。
ぎりぎりと骨が折れそうなほど掴まれて、手首が悲鳴を上げる。
荒い息。唇の隙間からときおり見え隠れする赤い舌。白い犬歯。今にも喉笛に食らいつきそうな。
悪夢のようで、背中に触れるシーツの冷たさだけがリアルだ。
「いやあ!」
思わず叫んですぐに気付いた、拒絶の言葉は今のキラには逆効果だった。
キラはますます非道くフレイを扱った。
フレイは怖さにひきつる顔をそむけようとしたが、キラはそれすら許さなかった。彼は何もフレイに許さなかった。
力関係では圧倒的にフレイよりキラのほうが上であり、そもそもナチュラルで女であるフレイがコーディネイターで男のキラに敵うわけがないのだ。
キラの腕は全て、フレイの身体の自由を奪うことに使われた。それは手のひらの鎖であったり、指先の愛撫であったりした。
「あっ」
こんな触れ方、こんな荒々しい暴力じみた行為は知らない。初めてだった。
今まで彼がどれほど手加減していたかをわかって、フレイは愕然とした。
今までどれほど――少なくとも彼が私を愛していると錯覚するほど――心のある扱われ方をベッドの中で受けてきたのか思い知る。
そう、キラはいつだって優しかったのだ。温かかったのだ。
しかしそれもやはりまやかしであったらしい。
「いた、い」
こぼれた声は泣き声だった。
キラは聴いていないのか、乱暴な仕草でフレイの乳房をつかみ、強引に足を割り開いた。
こんなことをされて濡れているはずがない。
キラは指を用いてそこを少しでも自分のやりやすいように潤そうとする。どこまでも身勝手な!
すると心はぞっと冷えたままでも、フレイの身体の防衛本能はしっかりとその役目を果たし、次第に水音が立ち始めた。
「ひ、あ、ああああ!」
無理やり自分とは違う肉を含まされる恐怖。フレイは過去にしたそれらのうちのどのときよりも異物感を覚えて吐き気がした。
体内にずうずうしくも押し入った男は、フレイを踏みにじり辱めた。
なぜ忘れていられたのか(きっとそれは彼が優しかったから)、キラの手は多くの強い人間を殺した手なのだ、フレイを殺すのも簡単に決まっている。
この手で私を縊り殺した後、キラはまた大声を上げて泣くのだろう。けれど今泣いているのはフレイの方で。
すすり泣きと喘ぎ声が混じり、それに時折男の名前が加わって部屋に散らばり、―――短い声とともに、しばらくして悪夢は終わりを告げた。
フレイはずっと泣いていた。演技を繕うことも出来ずに、素裸のただの少女としてただ泣いていた。
それから一度、キラの頬を音を立てて打った。
キラは赤くなった頬に手を当て視線を彷徨わせ、やがて徐々に彼の瞳に光が戻ってくる。
ゆっくりとまばたきをした彼の顔が歪むのをフレイは見て、彼を打った手を胸の前で握り締めた。
正気に返ったキラもまた、涙を浮かべていた。
「ごめん! ごめん、僕なんてことを……! 君にこんなひどいこと、するつもりじゃなかったのに! 僕はっ……」
いつもの泣き虫で柔いキラだった。何かに傷ついてばかりの、他人の痛みも自分の痛みにも敏感なキラだった。
だから、フレイは騙されているふりをしてあげている。
この少年の本質はさっきのような肉食獣なのだ。『いつも』のほうが偽りなのだ。
けれどそれに気付いていないふりをして、許してあげる。
愛してなんかいない。いるはずない。
偽りの涙に、優しさに、温かさに、柔らかさに、騙されたふりをしているだけ。
シーツの上、雫が滴り落ちた。
「ごめんっ……絶対に二度としないから……っ」
だからキラ、もっと後悔の言葉を吐いて。



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