彼女の膝の間に足を強く押し付けるとき、僕はたまらない興奮を覚える。
直前まで氷に浸していた手に背中を撫でられたように、ぞくぞくする。
フレイの白い頬には血が上って、透けたピンク色がとても綺麗だ。
わずかに開いた唇は唾液――僕のものか、それとも彼女自身のものか――で濡れ、角度によって光る。
赤い髪の毛はアール・ヌーヴォーのような美しい曲線を描いてシーツの上に散らばり、また幾筋かは汗で額や頬に張り付いている。
僕は特に芸術に造詣が深いわけではないが、目の前の光景が一枚の絵画のようであることはわかる。
僕以外見ることはかなわない絵だ。
それは、独占欲の塊である収集家が秘蔵していて、運がよければオークションに出されて一瞬日の目を見ることのできる絵よりも、もっと他人から隠されている。
こんなフレイ・アルスターが存在するということを、僕しか知らない。
僕はヘリオポリスで彼女に恋をしてから、よく彼女を見ていた。意識して視界に捕えていた。
彼女は笑ったり、拗ねたり、困ってみせたり、怒ったりしていたが、たいていは華やかに笑っていた。
それらの表情を、おそらく周囲の誰もが見たことがあるはずだ。
だけれど、今僕の下で、僕に与えられる感覚に肌を染めている彼女の表情を見たことがある人間が、僕のほかにいるだろうか?
いやしない。
僕が、僕だけが、こんなフレイを知っている。
その確信は、とてもとても僕を満足させた。
どこまでが夢だろう。半分覚醒した頭で僕はぼんやり思う。
だって過去の(彼女がこの猥雑な世界に生きていた頃の)セックスのとき、僕はフレイの顔をちゃんと見たことがなかった。
僕の目は涙のとばりがかけられていたし、部屋は薄暗かった。
彼女の燃えるような髪の毛は、青みがかった灰色の闇に溶けて、沈んでいた。
身体だけが白く発光しているかのように、僕の手を、舌を、皮膚を、誘う。
彼女は泣いていた。
小さな嗚咽が喉からこぼれる。僕はそれをキスで全部舐め取ってあげたいと思う。
本当は知っていた。
僕に抱かれながら、彼女は父親に詫びているのだ。僕ではない男のことを考えている。
――――パパ、パパ、ごめんなさい。
あなたが誰よりも愛していた娘が、身体を売る女の真似事をしている。パパが見たらきっと泣くわ。
かわいそうなフレイ、かわいそうに、かわいそうに。
だが彼女の声はまったく違う言葉を紡ぐ、『かわいそうなキラ』。
僕は彼女に罵られたほうが気が楽なのだ。だから今日の夢はまずまずだった。
僕は目をつぶったまま、ベッドに横たえた身体の向きを変えた。
僕の体重によってシーツの上に新しく刻まれたであろうしわをまぶたの裏に描く。
そしてその妄想の上に、白い裸体を乗せてみる。
そういえば僕は、清められて真っ白になった死体の肌の色をちゃんと見たことがない。
そして、彼女のあのミルクのような肌が、火にあぶられて醜く焼けただれるのは嫌だな、と思う。
こんなのを書きながら、フレイはきっと生きてるよとか思う自分はそろそろヤバイです。(06.06.29)
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