雨が降る音は聞こえるのに、星が降るときは音がしないのが不思議だ。
海辺の夜は穏やかで、ひんやりと冷たい。静かな唸り声のような、波の音。
砂に足が沈む。ざり、と粒と靴とががこすれた。
「お前、他のやつらに会ったりとかしないのか?」
「どういうこと?」
「だから、他のやつらに会いたいとか――思ったりしない、のか」
「どうして? だって、ここにはラクスがいるし、母さんもいるし、マリューさんたちだって。それに、アスランや君もこうしてときどき来てくれるじゃないか」
夜なのに影が出来るのは、月光があまりに輝いているからだ。
水面の乱反射は、カットした宝石を思わせた。
「全部受身だろう。ここから出ないで、向こうが来るのを待ってるだけで。私は、自分から会いに行かないのかって訊いてるんだ」
「どうして? だって、必要ないじゃない? ここにあるんだから、何もかも」
ざぁ、と一際高い波が押し寄せた。今夜は風が強いのかもしれない。
それとも、月の引力が影響を及ぼしているのだろうか。
「友達に会いたくないのかよ」
「アスランは僕の友人だったと思うけど」
「そりゃそうかもしれないが――」
「ならいいじゃない」
風が潮の匂いを浚う。
空に雲は一欠けらもないが、もしあったならさぞかし速く流れていただろう。
「でもやっぱり会いたいやつ、いるんじゃないのか? 会いに行けばいいのに」
「それは僕に死ねってこと?」
くすり、と微笑は夜に溶ける。
絶句した少女と、海を見て微笑む少年と。
辺りに沈黙が満ちた。波の音だけが、静寂が生まれないでいた理由だった。
波が引いた後の砂浜はチョコレートのように滑らかだ。
だがまたそれも、新たな波に覆われて壊され、また整え直されて、を繰り返す。
「そういえばね、ミリアリアから手紙が来たよ」
「えっ?」
「僕のこと心配してるみたいだった。サイやカズィのことには全く触れないように気を使って、僕はどうしてるかって、自分は元気だって……」
夜は青白く世界を染める。景色も音も匂いも肌触りも全てを浸す。
「カガリが言いたかったのも、そういうことなんでしょう?」
ざり、と砂が耳障りな音を立て、夜を傷つけた。
「大丈夫、責めてるわけじゃないんだ。ただ、ひとつ覚えていて欲しい。理解しろとはいわない。ただ、覚えているだけでいいんだ」
「何を……」
「僕はもう、サイにもカズィにも会わないって決めてる。カズィは僕に会いたくないだろうし、サイは僕のほうが会いたくない」
「っ、私は!」
「カガリ?」
「私はっ――、お前が見てらんないんだよ! やっぱりまだ、自分を責めてるんだとしたらっ……」
「カガリ」
「忘れろよ! いつまでも縛られてることなんかない、そうだろ!?」
白や黄色の星に混じって、赤い星が瞬いている。気が狂うほどの遠くに、それは存在する。
何万年、何億年の旅をして、地球に届く。
「カガリ。君は誤解をしている」
大気は澄んでいた。痛いほど。
「安心して。僕は彼女のものじゃないよ」
星がまた流れた。
「でも、彼女は僕のものなんだ」
何この電波な話……。
(06.07.16)
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