ペニスを擦りたて、精液を味気ないティッシュの上に吐き出す。
 僕は鉄の塊に乗ってたくさんの人を殺しているけれど、命(になる可能性のあるもの)を殺しているのには、モビルスーツに乗ることも生殖行為もそう変わりはない気がする。
 それがひどく滑稽に思えた。命を摘み取る血まみれの赤い手、今は精液にまみれて白い。
 剣を握るのと性器を握るのと、僕は同列に考えている。人が知ったら狂っていると笑うだろう。
 実際僕は狂っているのだろうから仕方がない。
「キラ?」
 今一番入ってきて欲しくない人間の声が聞こえた。
 僕は気づかない風を装う。小難しい思考に没頭したふりをする。
 生殖、つまり命を作る行為だ。たった一つを生に結びつけるために、他の何億もが犠牲になる。
 尊いとされる神秘的な生命の誕生だって、数多くの犠牲の上に成り立っている。
 つまりそういうこと。僕らが生きるためには、僕らに害するもの全てを殺さなくてはならない。
 戦いに犠牲は付き物だ。そういうこと。
「キラ、どうしたの?」
 近づいてくる彼女の声は不機嫌だった。赤い髪が視界にちらつく様は、僕に炎や血潮を連想させる。
 あまり良い光景ではない、なのに僕はまた興奮する。
 フレイは僕を見て眉を顰める。
 性器は最早僕たちの間においてそう珍しいものではなく、特に羞恥を呼び起こすものでもなくなった。僕らはお互い慣れてしまった。
 なら何が彼女の不興を買ったかと言えば――――要するにプライドの高い彼女は、僕が処理に彼女を使わず、全て自分の手で行ってしまったことが気に食わないらしい。
 そのくせ、僕なんかに抱かれるのも嫌だと思っている。まったく我侭だ。高貴で、傲慢で、潔白だ。
「したかったのなら、私に言えばいいのに」
 その言葉に僕は萎える。ああ、せっかく勃ちあがりかけていたのだが。
 彼女は本当にわかっていない。僕は自分から頼んでやらせてもらいたくはないのだ。それくらいだったら自分でする。
 したいと思うのは、彼女から誘ってきたときだけだ。
「そういう気分じゃなかったんだ」
 僕は彼女の整った顔を眺める。この顔がたまらなく好きだ。
 無邪気につりあがった目も、小さく尖った鼻も、ふっくらと色を載せる唇も。
 彼女はまるで、男をたぶらかすために生まれてきたみたいだった、そのために作られた存在であるかのようだった。
 けれど実際には作られた命であるのは僕のほうであり、コーディネイターの生殖率は極端に低い。
「ふぅん」
 フレイは不満げに呟いた。役割を取り上げられることを恐れているのだな、と僕は直感した。
 役割とは確固たる足場だ。この不安定な船の中で立っているために必要なもの。
 僕は少し彼女が気の毒になった。
 僕が高待遇を受けているのは、人を殺したくもないのに我慢して殺しているからだ。
 彼女も、抱かれたくもないのに我慢して僕に抱かれているのだから、僕はもっと彼女のことを考えてあげるべきかもしれない。
 こういうときにふさわしい、優しい言葉をかけようと探す。
「なんていうか、疲れてるときって、誰かのことを考えるのが難しいんだよ。相手を思いやれないで、自分のことばっかり考えちゃって。だから、そういう、余裕のないときにフレイとしたら、僕はきっと君を傷つけてしまうから」
「嘘よ」
 彼女はにべもない。
「そう思う?」
「疲れてるときじゃなくたって、キラは自分のことばかり考えてるわ」
 その言葉に、僕は感銘を受けた。
 確かに僕は、フレイがどう感じるかよりも、相手を思いやらなきゃいけないことが面倒くさくて、一人でするほうが楽だと思ったのだ。
 僕が純粋に感動して彼女を見つめると、彼女はふいと視線をそらした。
 その滑らかな頬に朱が散っているのを発見し、思い至った。
 もしかして、彼女は僕を好きなのか。
 この発見は僕の心をなんとなく柔らかくさせた。
「ねえ、じゃあ、僕に君のことを考えるようにさせてよ」
 怪訝な眼差しが僕を射る。視線で人が殺せるなら、僕はきっと彼女に何度殺されたかわからない。
 その代わりに、僕は視線で彼女を犯す。
「そういう気分になれるように、誘ってみせてくれない?」


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リク企画2。
リクエスト内容「水色的なすっごいサディストなキラ」

 サディストっていうか、すごい自分勝手で俺様なキラですね……。私の中のキラにはいくつものパターンがあるんですが、これはその中で、ごく当たり前に自分のことしか考えてなくて、他人を自然に見下すことに慣れてる感じのキラです。相手に対して失礼極まりない。で、フレイはそんなキラをいつも見てるから、なんとなくそういうことを感じ取ってしまうと。あとこれはいつの話だ。書き終わってから思ったんですけど、もしかしたら実はフレイ死んでて、単なる悟りキラの自慰という可能性もあるかもしれないです。


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