キラは彼女のたっぷりとした胸に顔を埋める。
乳房への執着、胎内回帰、マザーコンプレックス――――単語がいくつか断片的に浮かんでは消えた。
くん、と鼻をこすりつけるようにすると、彼女はくすぐったかったのかくすくす笑った。
からかい混じりの声でこう言う、
「なぁに? 私の甘えん坊さん」
確かにキラは彼女に甘えていた。肉体的にも、精神的にも、依存と呼んでもいいくらいに。
そんなキラの傷を受け止めようとする彼女の器がキャパシティの限界を超えひび割れつつあることにキラは気づいていたが、あえて見ぬふりを続けていた。
白い肌は傷一つなく滑らかで、それを指摘すると、彼女ははにかむように肩をすくめて上目遣いになる。
「だってパパがね、肌の綺麗な女の子は素敵だねって。だから私、いつも気をつけて肌を磨いていたもの。バスルームにお気に入りのソープの瓶を並べて……すごく可愛いの……クリームみたいな泡で身体を洗うのよ」
そう語る彼女は夢見る目をしていた。現実にはそのどれもがもうないのだ。彼女の家、広いバスルーム、並ぶカラフルな瓶、父親も。
キラは、肩をすくめたせいでさらに強調された彼女の胸の盛り上がりを見ている。
ああ、美しいなあ。
シンは雑誌を繰っていた。気まずい沈黙から逃れたかったのだ。
この男と――――キラと二人きりなんて、気まずい以外の何物でもない。
だから、彼との会話から逃れるためだけに、たいして興味もないマガジンに夢中であるように装う。
ときおりキラをそっと(目を合わせないように細心の注意を払った上で)伺うと、彼は気ままにぼーっとしたり、視線を別のほうに向けてみたり、一箇所をじっと見つめたりしていた。
シンにとってキラは理解不能の生き物で、それこそ宇宙人のようなものだ。
コーディネイターに対するナチュラルの感情ってこんな感じなんだろうか、とシンは車の広告ページを見ながら思った。
気配が動く。
「君って僕と似てるよね」
唐突に言われた言葉は、あまりにも唐突過ぎたので、初め自分に向けられた言葉だとわからなかったくらいだ。
シンは正直ものすごく嫌だったが、仕方なく顔を上げた。
「ねえ、たとえばさ」
「なんですか?」
キラはシンの方を見ておらず、その目は虚空、どこか遠くを見ていたので、シンは少しほっとした。
「たとえば、すごく綺麗なものがあったとするじゃない。自分にとって大切で、憧れで、欲しくてたまらない。そんなもの。そういうのってわかる?」
シンは考えた。浮かんだのは、歌いながらスカートのすそを翻らせるステラの、
そして微笑みながら死んでいったステラの姿だった。
「……はあ」
「もしそれが手に入ったら、君はどうする。ずっと綺麗なままでいられるように守ってあげたい? それとも、自分の手で汚してみたいって思う?」
相変わらずキラはシンの方を見なかった。
けれどシンはというと、その横顔をまるで睨みつけるように見ていた。
「俺は、守りたいです」
あなたはどうなんですか。問いかけたが、答えは返ってこなかった。
彼はいつもそうなのだった。こちらに質問を投げかけ、答えを求めてはくるが、自身の答えはけして明かそうとしない。
シンは諦め、再びページをめくる行為に戻った。
やがてページが残り少なくなったころ、独り言のようなキラの声が聞こえた。
「君は僕と似ていると思っていたんだけど、やっぱり違うところもあるんだね」
美しい乳房を、どろどろした欲望で思い切り汚す。
出してしまえば、たちまち襲ってくるのは虚脱感だ。
後始末もそこそこに、キラは布団をかぶって背中を向ける。フレイの顔を見るのが怖ろしかった。
自分のしている行いの最低さについては自覚していた。相手が受け入れるしかないのを知った上で、いいように扱っている。
フレイは優しく甘やかしてくれたけれど、キラが見まいと意図して避けていた瞬間はきっと、嫌悪に満ちた醜い表情をしていたに違いないのだ。
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リクエスト内容「是非キラフレを!」
実はこれリクの順番的にはラストなんですけど先に書いちゃいました。私のキラフレはこんなのばっかりですね。シンちゃんは「あんたのせいでもういないんだよ」と言わないだけ大人になりました。というかキラと積極的に関わり合いになりたくない感じ。キラは独自の理論で好き勝手生きてるので、たぶんラクスしかついていけない。そして最近はラクスでさえもうかなりついていけない。あとこのキラは確実に顔射とかもやってます。
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