彼女の操る言葉はたどたどしく、およそ年端も行かない幼児のようだった。
しかしキラは彼女のそういう汚れを知らぬ純真さ、無垢なところを愛している。
彼女はいともたやすくキラの言葉を信じ、キラを肯定し、キラを受け入れ、キラを許す。
彼女の全てがキラのために存在した。
一人の人間の全てが自分のものであるということが、どれほど稀少で、そして圧倒的に心を満たすか、想像してもみるといい。
ステラという少女は、完全にキラの従属の下にあった。
人殺しに疲弊しきったキラは暗い喜びを覚える。
ステラにとってキラとは世界、世界とはキラ。
彼女と触れ合うとき、キラの心は慰められた。
それはとても黒い色をした慰めであったけれども。
「ステラは、猫に似てるね」
唐突にこぼした言葉に、眼前の少女がくりっと首をかしげる。
金髪が風に優しく膨らんだ。
その甘い動きにキラの表情がほころび、もう一度口を開く。
「猫に似てるって言ったの。知ってる? 猫。見たことある?」
そう言った脳裏にもう一人の少女が浮かぶ。
赤い髪を持ち、血統正しき猫のように気まぐれで自分を振り回し、甘え上手で、高潔で、愛らしかった。
「猫……可愛い?」
答えになっていないような答えが返ってくるのなどもう慣れっこだ。
「うん。可愛い。ステラも可愛いよ」
「ありがとう、嬉しい……」
キラに依存しきった笑顔、そういえばかの少女もどこか依存症気味なところがあった。
そういうふうについあの人との相似を探してしまう己に苦笑して、キラは少女の頭を撫でた。
目を閉じて大人しくそれを受け入れるステラは確かに愛玩される猫を思わせて、さぞかし高級なペットになることだろう。
「キラは、猫……好き?」
「そうだね」
今度は喉をくすぐってやると、少女はちょっと肩をすくめた。くすぐったい、と語尾が小さな笑い声に混じって何か歌のリズムのようだった。
「ねぇ、ステラは僕のモノだよね?」
「うん、ステラ、キラの」
「じゃあ僕のモノらしい所有物の証、ってやつを見せてもらってもいいよね」
「しょゆうぶつ……あかし? ステラ、なんでもする。ステラ、キラのだもの」
純粋に慕うステラを見るキラの瞳は深い深い、滴り落ちるような闇を抱いていた。


首が絞まって苦しくないように、長さを調節して止めてある赤い革の首輪をした少女が、キラの前にちょこんと座っている。
嵌めたのはもちろんキラだった。
まるで本当の家猫のように首輪をしているものの、猫のように衣服を身に着けていない、というわけではない。
女の子らしいドレッシーな服を着たままだったがそのせいで首輪の赤だけが異様で、かえってどこか淫靡な雰囲気を醸し出していた。
キラは首輪についた細い紐をくい、とたわむれに引っ張ると、教え聞かせるように言った。
「何か喋るときやくすぐったかったり、気持ちよかったりしたときは、ちゃんとにゃあって鳴くんだよ」
「うん」
「違うよ、ほら。にゃあって言わなくちゃ」
「にゃあ?」
「そう。よく出来たね」
いいこいいこ、ステラは撫でられるのが好きらしい。
「みゅー……」
キラの手を頭に乗せながら、目を細めて気持ちよさを表現する。
キラは撫でる手を、曲線を描く頬に沿わせて、指をステラの口に含ませた。
「舐めて」
キラの意図を正しく察知し、ステラは子猫がミルクの皿をぴちゃぴちゃ舐めるように舌で指を舐めていく。
「ステラは本当にいいこだね」
ステラに与えていない方の手はゆっくりと肩の丸みを下りて、服をはだけさせていく。
あらわになった素肌の上半身に、首輪だけが残る。
自分だけの庭で、純粋な獣を愛玩動物へと調教したかのような、そんな光景だった。
従順な猫。ステラは可愛らしくにゃあ、と鳴いた。
開いた口から覗く赤い舌を指先でくすぐって、もう片方の手でキラがステラの柔らかく膨らんだ胸を包む。
軽く押すと、弾力のある肌は押し返してくるが、それが心地いい。
色の違う先端を親指と人差し指でつまみ、刺激を送る。ステラの身体がぴくりと動く。
「ぁっ……」
「にゃあ、でしょ」
そう言うとキラは意地悪く更に強い力で突起をつまんで、それからまるで磨り潰すようにぐにぐにと動かした。
「! にゃ……ぅ」
ステラは懸命に主の言いつけを守ろうとしている。
目じりにはうっすらと涙すら浮かび、けれど今自分がされていることの理不尽さにすら気付いていないに違いない。
「にゃ……にゃあ、……っ」
彼女は依存の対象となったものに絶対の信頼を抱く。
キラはそのことを正しく理解していて、そして最大限に利用していた。
そう、キラは全てを知っていたのだ。
自分がしていることが、どれだけ愚かで、唾棄すべき、世界に罵られるほどのものか。
あの赤い少女と同じ声だからというだけで、ステラを弄び、思うが侭に――――。
「にゃぁ」
頬を舐めるステラの温かい舌に、泣きたくなる。
けれどキラは泣いても叶わないことも知っているから、ただステラの膝を押し開いて微笑みかけた。




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