結論から言います。……弄ばれました。



・完犯罪の : 後




涙を拭うのに似て目元をつ……となぞられる。
「お前、昨日泣いてただろ」
「なんで知ってるんですか」
確かに昨日、ちょっと悲しくなったことがあって泣いたのは事実だ。
でもそれは柚木先輩と付き合っていくって決めたときから覚悟していたことだから、我慢したし、誰かに――もちろん先輩にも、言うような真似はしなかった。
「お前のことだ、俺が知らないはずないだろう?」
ぐうの音も出ない。この人は、なんでこんなに何もかもお見通しなんですか。
「もう少し俺を頼れよ」
「……言っておきますけど、原因は先輩ですよ」
「それも知ってる。だが、直接お前を泣かせたのは、他のヤツだ」
昨日、告白をされた。
コンクール後何故か私はもててしまい、何度かそういったことがあって。
申し訳なかったけど、全部お断りしていた。だって私は好きな人がいたから。
でも、おおっぴらには出来ない。その人との関係は、お互いしか知らないこと。
噂になったことはあったし、親衛隊に問い詰められたりもしたけれど、私は全て否定してた。
迷惑をかけちゃうんじゃないかって思ったから。
告白してきた男の子は、自分が振られた理由を知りたがったけど、本当のことが言えない私は適当に誤魔化すしかなくて、彼の真摯な姿勢に対して申し訳なくて、後でこっそりごめんなさいって泣いた。

「お前を泣かせていいのは俺だけなんだよ」
「……横暴」
先輩が横暴なのは、今に始まったことじゃないですけど。
「へぇ、口答えする気? あんまり生意気だと襲うよ」
「もう襲ってるじゃないですか!」
制服が、制服がしわになる。上はまだいいけど下のプリーツがしわになったら目も当てられない。
「せ、先輩、話し合いましょう」
「これ以上議論の余地はない」
「お、おお落ち着いてください、ね?」
「落ち着いてないのはお前のほうだ」
「スカートぐちゃぐちゃになっちゃいますっ」
「その心配は要らないよ、すぐに脱がせてあげるから」
勘弁してくださいお願いこの通りです。

暗転。




でも先輩が調子に乗っていたぶり焦らしてくれたおかげで、私の貞操は奪われずにすみました。
すんだんだよ、助かったんだよ、私はまだ清らかな身体だよっ。
それというのも、お姉ちゃんが彼氏と喧嘩したらしく、予定を変更してお帰りになったからです。
お姉ちゃん素敵、お姉ちゃんありがとう、お姉ちゃんグッジョブ!!
ついでにお姉ちゃんをタイミングよく怒らせてくれたお姉ちゃんの彼氏もグッジョブ。
玄関のドアが開く音が聞こえたとき、私はそれをまるで神の声のように思いましたとも。
神様、信じるものは救われるってマジですね。
「ちっ」とか舌打ちに似た別の音が聞こえたような気もしたけど、空耳ということにしておく。
「香穂ー、寝てるの? 香穂ー」
とんとんと階段を上がってくるお姉ちゃんとお姉ちゃんの声。
それからの先輩の早業は凄かった。
あっという間に自分の服を整えると、いつもの完璧な優等生にはやがわり。
非の打ち所なんかあるはずない。
そして半裸の私にパジャマを手渡し(ってだからなんでパジャマの場所知ってるんですか)布団をかぶせ、「急いで中で着ろ」と小声で耳打ち。
お姉ちゃんがドアを開ける頃には、先輩のシナリオどおりの光景が出来上がっていた。
「香穂……あら、こんにちは」
顔をのぞかせたお姉ちゃんは驚いた顔をしている。
そりゃそうでしょうとも。
ベッドに寝てる妹。その横に座ってる一見美少年内実悪魔。
この状況をお姉ちゃんにどう受け止められるかは想像に難くない。
両親不在をいいことに彼氏を家に連れ込んだと思われるのかしら。それは嫌。
「えーと……?」
「夜分お邪魔してすみません、柚木梓馬といいます。香穂子さんが熱があるようなのでお送りしたんですが、どなたもいらっしゃらなかったので上がらせていただきました」
「あら、それはわざわざ……どうもありがとうございます」
お姉ちゃんはころっと騙されたみたい。
確かにベッドの中の妹は顔が赤くて眼が潤んで息も荒っぽくて風邪に見えないこともないうえに、先輩の無敵の笑顔と言葉があれば、誰もそれを微塵も疑わないでしょう。
私はとりあえずの危機の回避に、ほっと胸をなでおろすはずだった。
そう、先輩の次の爆弾発言さえなければね。




あっけにとられて二の句の告げない私と、驚いてるお姉ちゃん。張本人の先輩だけが涼しい顔。
ああ、お姉ちゃんどうリアクションすればいいのか困ってるのね、奇遇だね、私もそうだ。
そんなお姉ちゃんはまたもタイミングよく携帯が鳴り(きっと彼氏からだ)、それを口実に部屋から逃げてった。
残された私はしばらくしてようやくフリーズが解けて、当然先輩に抗議した。
「せ、先輩、何てこと言うんですかっ!?」
「妹さんとは結婚を前提にお付き合いをさせていただいています、って」
さらっと言ったよこの人は。
「ご不満?」
「当たり前ですっ」
「何お前、俺とのことは遊びだったの?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
明日どんな顔してお姉ちゃんに会えばいいのおっ。
いや、それよりもお母さんとお父さんに話される前に口止めをしなくては……。
苦悩する私を他所に、先輩は優雅に立ち上がると
「そろそろおいとまするよ。邪魔が入ったのは残念だけど、続きはまた今度……ね」
なんて不穏な爆弾第二撃を落としていってくださいました。


その「今度」がどうか当分先のことでありますようにと祈りながら、ようやく私は眠りについた。
そして次の朝、口止めを忘れていたことに気づき――――どうなったかは、推して知るべし。



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