お前が好きだよ、と宗茂が言ったとき、清正はそれをまるで本気として受け取った様子がなかった。
 宗茂としては心のない言葉を告げたつもりはないのだが、軽口だとしかとらえていないらしい。ならば信じさせてみるまでだ。
 宗茂にとっては思っていることを口にしたいときに口にする、ただそれだけでいい。
 実際宗茂は清正が好きだった。清正の強さも、片鎌槍を振り回す姿の美しさも、戦場にいながら人としての情を捨てきれないところも、意固地なところでさえも、宗茂には好ましく映っていた。
 宗茂が風ならば、清正はその風に銀の毛をなびかせ戦国乱世を駆ける一匹の虎だった。時に傷つき、血を流し、それでも猛り吼える虎。
 美しいなと宗茂は思った。そうして、自分のものにしてみたいと思った。
「清正」
「好きだ」
「愛している」
「お前と共にありたい」
 重ねた言葉は降り積もっていった。頑なだった清正がいつしか自分を認め、心を許し始めているのを宗茂は感じた。当たり前だ、宗茂は本気なのだから。本気の真心が伝わらぬはずはないと、宗茂にはその自信があった。――――だが。

「どういうつもりだ、清正」
 宗茂は問うた。それというのも、清正が宗茂の身体を褥の上に押し倒し、あまつさえ跨っているからだ。
 清正の鍛え抜かれたしなやかな体が、はだけた着物の間から見てとれる。
 つい先ほどまで、宗茂と彼は酒を酌み交わしていたはずだ。それが宗茂が清正にいつものように「好きだ」と言った後、こういうことになっている。
 常態の清正であれば、絶対にしないと言える行動だった。
 だが宗茂は驚きを胸のうちだけで処理し、あくまでも冷静に彼の意図を探った。何か理由があるのだろう。清正は馬にでも乗るように宗茂の腹の上に腰を下ろしながら、ゆっくりと口を開いた。その瞳からはいつもの輝きが失われているように思えて、宗茂は不審を抱く。
「なあ宗茂。お前は俺を好きだと言うが、一体どこが好きなんだ」
「俺はそれを何度もお前に告げてきたつもりなのだがな。お前の心に残っていなかったとは残念だ。ならば今一度並べて見せようか? 俺はお前を可愛らしい、好ましいと思うよ。その高い能力も、真面目で嘘がつけず、自分の思うがままをはっきり言う性質も、情に脆いところも気にいっている。守りたいもののために戦うお前の姿は綺麗だ、清正」
 清正は唇を歪めて笑った。
「お前の目を通した俺は、随分大層な人間のようだな」
 俺のどこが綺麗なものか、と吐き捨てるように言う。
「お前が好きな俺などどこにもいない。お前の見ている俺は幻想にすぎない。本当の俺を知りもしないで、上辺だけで愛を語るなんて、これほど馬鹿なことはないと思わないか?」
 ああ、まるで手負いの獣だ、と宗茂は思った。神経を尖らせ、周囲を警戒し、疑い、威嚇している。だが何に傷ついているというのだろう。
 清正は身体をずらして宗茂の着物の裾をたくしあげ、現れた下穿きすら解いて性器を取りだした。
「俺は、お前が思っているような綺麗な人間じゃない。汚らわしくて、淫乱だ。そんな俺を知って、お前はまだ、俺を好きだなどと言えるのか」
 すっかり宗茂の足の間におさまった清正は、おもむろに宗茂を含んで口淫を始めた。温かく湿った粘膜に包まれ、舌で扱かれしゃぶられる感覚に、宗茂は息を詰めた。宗茂も若い男だ、まして好意を抱いている相手にそんなことをされて、昂ぶらないでいられない。おまけに清正の動きは巧みで、手慣れていた。まんべんなく濡らされすっかり育った陰茎を口から出し、今度は指で愛撫する。
「秀吉様に拾っていただくまで、虎と言うより野良犬のように生きてきた。それでどうして清廉潔白であれるだろう。宗茂、俺は、もうとっくに汚れきってるんだよ」
 その顔を見た瞬間、宗茂の胸にかっと怒りがこみ上げた。
「え、うわっ」
 身体を起こし、形勢を逆転させる。今度は宗茂が清正を褥の上に引き倒して、その手首を押さえつけていた。耳元で低く囁いてやる。
「俺を見くびるなよ、清正」
「……っ」
 牙を立てるように口づけて、荒々しく奪うその合間に乱れていた着物をさらに乱して暴いた。清正の顔色が変わる。だが容赦などしてやるものか。この意固地でわからずやの馬鹿に教えてやらねばなるまい。乱暴な手つきで肌をまさぐり、下肢を晒して、間に膝を割り込ませる。組み敷いた身体がはっきりと強張るのが分かった。
「や、嫌だっ……!」
 紛うことなき悲鳴が清正の喉から出るに至って、ようやく宗茂は動きを止めた。はっと見あげてくる顔に笑いかける。
「俺に乱暴にされるのが嫌なんだろう?」
「違う、今のは……」
「ならばなぜ、傷ついた顔をする? お前の言葉は、本当の自分を知っても軽蔑しないで愛してくれ、と聞こえるが」
 息をのんだ愛しい身体を、宗茂は優しく抱きしめた。



5.02のスパコミで配ったもの 2ページに収めるのが課題だった…宗清プロトタイプでした