まったくこいつは、どういった貞操観念で生きてきたのだろう。宗茂は呆れると同時に心配になる。途中でやめるつもりだったのだが赤くなった清正があまりに可愛くて、許しも得たことだし最後まですることにした。清正の心が自分にないなら抱いたところで意味はないと思っていたが、今や清正が宗茂を意識しているのは明らかだった。どもったり赤くなったりと反応がいちいち面白い。しかし清正ときたらこの期に及んでもまだ
「縄がないなんて初めてで落ち着かねえ……」
とこうだ。どうやら徹底的に間違った知識を叩きこまれてきたようである。確かに清正の肉感的な身体には縄が似合うとは思うが、それにしたって何もそんなに変態趣味の輩ばかり相手にしなくてもよさそうなものを。嫉妬心を奥へと仕舞い込み、仕方ないなと宗茂は溜息をつく。
「そんなに縛って欲しいなら縛ってやろうか。なに、安心しろ、酷いことはしない。普通がどういうものか教えてやる」
しかしこの部屋に縄はないので、宗茂は帯紐をしゅるりと解いた。俺のも使うかと清正が自分の帯を解いて差し出してきたので、こいつはどこまで、ともどかしい思いを抱える。清正の過去を全部塗り潰して上書きしてやりたい。苦痛など与えずに優しく、絹で包むように抱くのに。本当の交わりというのがどんなものなのか、宗茂の心ごと伝えたかった。
「いいか、今までのお前の交合はとても交合とは呼べん。そんなもの、ただ縛られて一方的に嬲られていただけというんだ。俺はお前をきちんと愛したい。だから優しくする。覚悟しておけ」
清正は宗茂の言葉に目を瞬いていたが、やがて頷いた。優しく抱かれたことなどないのだろう。自分が彼に交合の悦びを教えてやれると思うと宗茂の心がずくりと疼いた。清正が初めて多少なりとも情を伴って抱かれるのが自分なのだ。さっそく清正の腕を身体の前で縛る。後ろ手にしなかったのは横になったとき背中で押し潰して痛むことのないようにという配慮からだ。
「痛くはないか」
「ああ」
着物の前は大きく開けられ、清正の健康的な肌が露わになる。宗茂は別段縛り方になど詳しいわけではないが、清正のこの肌に縄はさぞかし映えるだろうと思った。適度に鍛えられた盛り上がった肉と相俟って、なるほどこれは、縛りたくなるのも頷ける。ただ、宗茂には大切な相手の尊厳を傷つけてまで押し通したい性癖などないので、清正が望まないのであれば縄目を見る機会はこれから先も訪れないだろう。
「無理強いはしないさ。嫌だったら遠慮なく蹴りあげてくれていい」
「俺が遠慮なく蹴ったら、お前吹っ飛ぶぞ」
「それでこそ清正だ」
にやりと笑うと、宗茂は清正の引きしまった滑らかな肌に手を這わせた。中途半端にはだけた着物がなんとも言えず扇情的だ。ひく、と皮膚の下の筋肉の緊張を楽しみながら、表面を撫でていく。
「あ……」
清正は敏感に刺激を拾い上げ、反応を返してくる。そうされるともっとよくしてやりたくなる。胸の肉を揉み、盛り上がった胸部の頂点を指で挟むと、明確な反応があった。
「ひ、っ」
可愛がってやりたい、もっともっと。清正の感じる部分を全て知りたい。くに、と指の腹で捏ねるように押し潰すと、耐えられないといった様子で身を捩る。
「気持ちいいか」
「わからん……っ、だが、妙な感じ、っだ……ッ」
宗茂はなおも乳首への刺激を続け、清正の声が次第に甘く色めいてくるのを感じた。ちゃんとよくなってくれている。自分の手で乱れる清正を見ていると愛しさがふつふつとこみあげた。
「可愛いな。清正」
「は……!? 馬鹿か……!」
ふぅふぅと呼吸を荒げる清正が毒づいたところで全て睦言に聴こえる。片手で胸の弾力を楽しみながら、硬く尖った先端をいじめると、虎はいい声で鳴いた。
「あ……ああ、ん……っ」
宗茂の腰に熱が溜まり、重たく痺れていく。普段よりも高い、ところどころ吐息で掠れさせた声が、宗茂の鼓膜を透り脳髄に響く。綺麗に引き締まった腹筋を撫でて、手のひらは下腹部へ降りた。はっと不安げな目が見あげてくる。宗茂は安心させるように笑いかけた。
「大丈夫だ。俺に任せろ」
きざしていた清正のものを手で包み込み、ゆるゆると擦りたてる。清正の反応が顕著なのを見てとると、枕元に用意してあった油に手を伸ばした。中身を掬い、清正の閉ざされた秘部に塗り込める。ひくん、と内股が引き攣った。馴染ませるようにゆっくりと指の腹で撫でていく。
「ん……ッ」
「清正。唇は噛まなくていい。恥ずかしがる必要はない」
清正は首を振る。この意固地さもまた好ましく、宗茂は好きだ、と耳に流しこんでやった。途端に手の中のものが大きさを増す。
「お前、それは……ひきょ、だろ……」
「俺は思ったことをすぐ言いたくなるたちでね」
言いながら後ろに指を侵入させた。途端にきゅうっと締めつけてくるこの熱がたまらない。早くここに己を突き立ててしまいたいが、自分の快楽よりも、今夜は清正を悦ばせることが優先だ。濡らした指で内側の壁をそっとあやすように探ってやる。清正の肩がびくびくと震えた。悪くないらしい。
「あ……、あっあっ」
本当に可愛い、と宗茂は思った。もっと清正を知っていきたい。どこが弱いのか。どこを擦ればどんな声で鳴いてくれるのか。泣き顔も、達するときの顔も全部知りたい。そうして閨の清正を全て自分のものにしてしまいたい。過去の残滓など洗い流してやろう。清正がどれほど愛されるべき存在なのか、清正自身に知らしめてやろう。
宗茂は独占欲の強い男だ。そんな男に愛されることはなかなか大変だと、腕の中の清正は気付いているだろうか。
了
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