『着いたら外で待ってろ』と簡潔に返信を済ませて手早く着替える。
 家族に気づかれるとやっかいなのでなるべく足音を立てないようにそっと階段を降り、洗面所に向かった。
 抜き足差し足、まるでこそ泥かなんかみたいだな、と苦笑する。
 幸いにして誰にも見つかることのないまま、顔だけ洗って家を抜け出した。
 午前の白い太陽が眩しい。清々しいほどいい天気だ。俺の野望にとって絶好の日和といえよう。
「早かったな」
 電柱の横に立つ、すらりと細長い影に声をかける。
「あなたが早く来いって言っ……――――え?」
 茫然自失で絶句する古泉、というなかなかに珍しいものが見れた。
 ハルヒじゃないが、このレアな顔を写真に撮って女子に売りさばいたら儲かるんじゃないかと思うね。
「うむ、ご苦労」
 俺は腰に両手を当てて胸を張った。
 ちなみに今の服装はTシャツに上着を引っ掛けて、下は七分丈のパンツという、サイズが合ってなるべくユニセックス目なものを選んでみたわけだが。
 古泉の首が、ギギギ、と錆付いた音を立てそうなほど不自然な動きで上下し、
「っ!!」
 一瞬の後、一気に真っ赤になって後ずさる。電柱に激突せんばかりの勢いだ。
 なにもそこまで驚かんでも。
「あ、あなた、女、女性化してませんか!?」
「ああ、どうやらそうらしい」
「そうらしい、って他人事みたいに! なんでそんなに落ち着いてるんですか!」
 お前は慌てすぎだ。
「大丈夫だよ、長門に相談したらいつでも戻せるって言うし。でさ、せっかくだから今日一日は楽しもうかと思って」
「次に生まれ変わったら男と女のどっちになりたいか」という質問があるが、生まれ変わらずとも自分とは違う性を体験できるなんつう滅多にない機会に恵まれたんだ、一回くらい女の生活を満喫してみるのもいいんじゃないだろうかと考えたわけだよ。
 俺が更に胸を張ってにやりと笑うと、古泉は口を手のひらで押さえて一歩よろけた。
「いえ、あの、そうではなくて、いえそれもあるんですが、あなた下着……!」
「ん? ああ」
 なんだ、こいつは俺がノーブラなのを気にしてたのか。
 いかにも女慣れしてる風なのに、真っ赤になっちゃって純情なことだ。そのわりに視線が胸元に釘付けだけど。
 まあ、元男としてその気持ちはわからんでもないがな。いやあ、古泉も男だったんだなあ。
 俺はなんだかしみじみとした気分になりながら答えた。
「しょうがねぇだろ、女物の下着なんか持ってねえんだから」
 つうか持ってたら変態だ。
「そ……それはそうですけど、ならせめてもう少し厚着をするとか……」
「サイズ合う服があんまなかったんだよ。そうそう、それでお前を呼んだんだ」
「……え?」
「買い物、付き合ってくれ」
 きょとんとする古泉、レア再び。カメラは持ってないんで、せめて目で記憶しておこう。