なんだこれ……今どうなってるんだ俺、なに、なんでこんなことになってるんだっけ? なんだこれ。
 熱い、肌が燃えるようだ。
 任務でしくじって全身に火傷でも負ったんだろうか、だがそれにしては痛みがない。
 だいいち俺は今任務に当たっていない、艦内の自室に――――いや、違うな、確か上官であり恋人であり同性という複雑怪奇摩訶不思議な肩書きを持つ男の部屋に行って、行って……それで、そのあとどうしたんだっけ。
 わからない、考えられない。
 状況を思い出そうとするのに、ぼやけた像は端から拡散していってしまってきちんとした形にならない。
 夢、夢にしては触覚がリアルすぎる。視界が揺れた。揺さぶられているのだ。
 意識は遠く、感覚だけが異常なまでに鋭い。
 肌に触れるなにか、熱源のひとつだと思われる体内に埋め込まれたなにか、から与えられる快感を、神経が克明に拾い上げる。
 強すぎるその感覚から逃れたくて、おそらく俺は腰を捩った。
 おそらく、というのは、確かではないからだ。自分の身体がどう動いているのか、どう動かしたいのか、どう動かそうとしているのか、どう動けるのかわからない。
 快楽に直結する神経が全身すみずみまで張り巡らされて、肌の表面に剥き出しになっているような気がした。
 この身を包む空気の流れにさえ感じてしまうような。全部、全部だ。身体の外も、内も。
 ありえない場所になにかが入り込んでいる。
 自分の中になにか別のものがある。
 硬くて、熱くて、大きい。
 自分のものではない他の体温。湿った、小さなため息のような息づかい。喘ぐ声。
 食まされている杭のようなものが、驚くほど奥深くまでを開こうとしてきて、身体が逃げをうつ。
 それをまた許さないとばかりに引き戻される。
 いやだ、こんなのつらい。
 突き上げられて、がくんと僅かにつんのめる。
 支えようとした腕が汗で滑る。必死に力を込めようとしているのにうまくいかない。
 指先が頼りなくさまよう。手のひらの下、触れている床に弱々しく爪を立てる。 床? たぶん地面、ではないだろうと思う、柔らかかったから。
 おそろしく気持ちがよくて、溶けていく。
 無理だ、保っていられない。意識も、俺の線も。
 自由にならない身体の内側から、ぐぷ、という音がする。ぐぷぐぷと響く。
「んっ……あ、あぁぁ……、ひっ……ん、あ、あ……!」
 信じがたいほど悦楽にとろけきった、はしたない声。これは俺のものなんだろう。
 それとは別、くすりと笑い声が耳に届いて、すぐ後ろに誰かがいるんだということはわかる。
 腰を掴む汗ばんだ手のひらの持ち主。
 まとまらない思考で、それでもその人物の名前は鮮明に浮かんだ。

 ……古泉、幕僚総長。

   ■

 その日の俺の機嫌ときたら、どこまでも下げ止まらず、底値を更新し続けていた。
 記録的な大暴落に誰かストップをかけてくれないものだろうかと願いつつ、こめかみをひくりと引きつらせる。
 向かいに座る、口ひげを生やしたいかつい身体つきの中年男が、お茶を運んできた若い女性下士官の尻を撫でて悲鳴を上げさせたのを、咳払いののち、なるべく剣呑な響きが声に滲まないよう意識して咎める。
「少将閣下。……お戯れが過ぎます」
「いやいや、ここは美しい花が多いな」
 くつろいだ様子で深々とソファに身体を預け、いかにも好色そうな下品な笑みを浮かべる男に、俺の血管と理性の糸と、どちらが切れるのが早いかね。
 きっちり手袋を嵌めているというのに、さっきから手のひらに爪が食い込んでじんじんと痛みを訴えている。
 ここは高官の滞在のための迎賓施設、その一室だった。