「大丈夫ですか?」
 俺と古泉以外誰もいない保健室で、真っ白いカーテンが揺れている。思考がうまく働かない。心のどこかが壊れて、麻痺してしまったようだった。
 だがなんて答えられるんだ? 大丈夫じゃない、俺はケツに無理やりローターを入れられて、イキたくてイキたくて仕方がないんだ、なんて口が裂けたって言えるわけがない。
 第一打ち明けてどうなるっていうんだ。相談したところで、あの実習生が機関の差し金で俺を機関にとって都合よく調教するためにやってきていて、古泉自身も事態に噛んでいる可能性だってあるのに。
 もし、もし古泉がなにもかも承知尽くだとしたら、そうしたら俺は、きっともう立ち上がれない。
 そして、そうじゃなくて、古泉は全く何も与り知らないとしても、やっぱりこんな、男に脅されていいように弄ばれている俺の状態を、知られたくなんてない。
 どちらにせよ身動きが取れない八方ふさがりだ。
 うっすらと滲んだ視界に古泉の気遣わしげな顔が映って、温かい手のひらに肩を掴まれた瞬間、俺の身体は大げさなほど跳ねていた。自然、後ろに咥えこんでいた玩具を思い切り締め付けてしまう。
「……っ!!」
 悲鳴を上げなかったのが不思議なくらい強烈に身体を突き抜けた快感に、目の前が白く焼けた。がくんと膝が崩れ、はっと気がつくと、古泉の腕が俺を受けとめようと動くのが見えて、
 ――――ばれる!
 胸から噴き出したのは抱きしめられたら気づかれてしまうかもしれないという恐怖で、俺は咄嗟に古泉の胸を突き飛ばしていた。
 反動で後ろによろめいた俺が、ろくに足に力の入らない今の状態で堪えられるはずもなく、無様に床に尻もちをついて倒れ込む。
 トぶかと思った。
 下着の中に不快な感触があり、射精してしまったのだと絶望に頭を横殴りにされる。
 古泉の前で。
 濡れた下着はやがて特有の異臭を放ち始めるだろう。その前にこの場を適当に誤魔化して、さっさとトイレに行かないとやばい。
 それでも依然として容赦なく過敏な粘膜を抉り続ける振動が、俺からまともな言語能力を奪っていく。
「あっ……は、……っ」
 せっかく親切心から手を伸ばしてくれただろうのに、助けようとした相手に理不尽にも突き飛ばされた古泉が、訝しげな視線を向けてくる。
 まあそりゃそうだ。納得いく説明くらい欲しくもなるだろうよ。
「あなた、どうか……?」
「な、んでもねえ……か、ら……っ」
 情けなくもへたりこんだ俺は、なんとかゆるゆると首を横に振った。知られたくなんてない。絶対に嫌だ。
「ですが、とてもなんでもないようには見えませんよ。随分辛そうだ……熱があるのでは」
「違う、その、少し腹が……痛くて、……便所、行ってくる」
「お一人で大丈夫ですか? ついて……」
 いいから放っといてくれ、と答える前に、こちらに伸びかけていた古泉の指先が止まった。
「……?」
「バイトの呼び出しのようです。涼宮さんはあなたを随分と心配なさっておいでのようですから、無理をせずに早く治してくださいね」
 ――――閉鎖空間か。
 焦っていたとはいえ、さきほど同行を申し出てくれたハルヒに冷たく当たってしまったことを思い出し、あああのせいかと思う。