あなたは涼宮さんとつがうべき人だ、と隙あらば洗脳のように会話に混ぜてくるこいつが俺は嫌いだった。
 なぜならそれを言われるたびに、俺の胸は何本ものレイピアに串刺しにあったように痛むからだ。
 注射を打つ医者を子どもが忌み嫌うのと似たようなものである。
 マゾじゃあるまいし、自分を痛めつける人間を、どうして嫌わずにいられようか。
 ではなぜ胸が痛むのかというと、それは俺がハルヒではなく別の人間を好きだからで、その別の人間というのは古泉のことで、驚くことに俺は古泉が好きなのであって、つまり俺は好きなやつから、そいつではない他のやつとくっつくお膳立てをされているのだった。
 ひどい話だと思わないか?
 いくら俺が図太くできているといっても、流石に傷つくにきまっている。だから、人が傷つくような言葉を繰り返す古泉が嫌いだ。
 だが傷つくのは古泉が好きだからこそで、もうここまで来ると好きか嫌いなのかわからん。
 ……いや、やっぱり好きだ。
 生まれてこの方十六年と少し、俺は自分をガチだと疑わずに生きてきた。ガチはガチでもガチなヘテロという意味だが。
 人生を振り返ってみたところで、間違っても同性愛の気なんか見出せない。
 初恋の相手は従姉であったし、姉という字が使われているので正真正銘女だ。
 それに俺は特盛が好きだ。大好きだ。おっぱいは正義である。
 あの柔らかなふたつの膨らみには男の永遠の夢と浪漫が詰まっていると言っても過言ではない。
 アイドルのグラビアに興味津々だし、朝比奈さんを思い浮かべるだけで陽だまりにいるような気持ちになることも可能だ。
 なのに何をまかり間違ったのか知らんが、なぜか俺が恋してしまったのは、特盛どころか平坦で硬い胸板しか持ち合わせちゃいない同じ男の古泉なのだった。
 理屈じゃないのだ、恋ってやつは。
 こんなやっかいな感情、ハルヒが精神病と称するのも当然だ。
 そうだな、初めは正直、なんだこいつと思った。
 ハンサムで、背が高くて、スタイルがよくて、運動もできて、理系の特進クラスだなんて、絵に描いたような男の敵じゃないか。
 いけすかねえ。
 俺なんかこれといった特徴もない平々凡々な顔に、平均的な身長、運動は別段得意ではなく、通常クラスで成績は下から数えたほうが早い絵に描いたような普通人だぞ。
 とまあ、いたくコンプレックスを刺激され、気に食わんヤツだと思ってしまったわけだが、実は古泉はただの胡散臭い顔のいいだけの男ではなく、なかなかヘビーな過去とバックグラウンドを背負っていた。
 あいつがそれをちらちらと俺に垣間見せるたび、なんだか俺はどうにも放っておけない気分になっちまって、気になって仕方なく、気づけばずぶずぶと嵌って、もっと知りたい、と思ってしまったころには手遅れで、すっかり引き返せなくなっていた。
 まさかなあ、自分が男に惚れちまうなんて信じられなかったが、俺は比較的そういうことに偏見のない人間であったので、最初こそ悩みはしたものの、すぐに開き直れてしまった。
 我ながら、自分の順応性の高さには恐れ入る。
 だが、俺がそのように割り切れても、向こうがそうだとは限らない。
 男に懸想されているなんて知ったら、古泉はきっと気持ち悪いと思うだろう。
 それに古泉は、俺とハルヒがくっつくことを望んでいる。
 そんなあいつにとっちゃ、俺の気持ちなんか、まさに百害あって一利なしの、邪魔なものでしかないだろう。
 だから言うつもりなんか微塵もなかった。
 成就を諦めて、本心を隠して、それでも友人としてそばにいるだけなら、見ているだけなら、好きでいるだけならいいよな、と、思っていた。
 結局のところ、俺は自分に甘かったのだ。
 恋は盲目と言うが、本当に周りが見えなくなるらしい。





ここからいろいろあって古泉以外と寝るキョンに進化します