だろ、とその一言すら、今の俺は口にすることが出来ない。嘘だろうこんなの。

 異様な光景だった。到底現実だとは思い難かった。
 機械でできた何本もの触手が卑猥に絡み合い、ひしめきあい、俺を囲むようにしてうじゃうじゃと床を這い回っている。
 その内のいくつかは足元から上へ向かって巻きついており、軍服を剥がされた俺の身体はやつらにいいようにされていた。
 弱く柔い皮膚を撫で、理性を消し去り快感を引きずり出そうとする細いコード。時折、胸の突起に微弱な電流が流し込まれた。
「ふぐっ……ふ……うぅ……!」
 口内をえずきそうなほど奥まで犯していた触手が舌先をくすぐり、置き土産のように甘い粘液をまぶした後、ゆるりと抜けていく。
「ひっ、あ、あああああっ……! あ、あ」
 塞ぐもののなくなった喉からたちまち聞くに堪えない嬌声が溢れた。


 戦争は――――ごっこじゃない、遊びじゃない。命のやり取りだ。
 一瞬の判断ミスが己の身を危うくし、何千何万の部下を、ひいては何億の母星の人間を殺す。
 ひやりとしたことは幾度もあった、もうだめだと思ったことも、生々しい死を肌で感じたこと、どれだけ薄い氷の上に立っているか、今自分が置かれている戦場は死と隣りあわせなのだと、実感だって散々してきた。
 己に与えられた役目も理解している。わかっているさ、作戦参謀の肩書きは飾りではないことくらい。
 わかっていて、それでも、目の前で消えるかもしれなかった命を、それがたった一つであろうとも、助けたいと手を伸ばしてしまった。
 それはそんなに罪か? ここまでの『仕置き』を受けるほど、罪なことか?


 嬲られているこちらを、触手に負けず劣らずのねっとりとした視線で見上げた幕僚総長は、冷たいのにマグマのようにも思える矛盾した色をその瞳に宿しながら立ち上がった。主に従順な触手が離れた胸の先、代わりに指が伸ばされる。
「ひ、」
「ふふ、こんなに真っ赤になって……舐めて欲しそうにぷっくりしてますよ。どうしましょうか、これ」
 つ、と指先が乳輪を辿り、爪が突起の先端を軽く引っ掛けた。ただそれだけでどうしようもないほど身体が跳ねる。
 濡れた舌がぬるりとそこを舐め上げる。次には強く吸い付かれ、歯を立てられた。その間も、触手による他の場所への責め苦はやまない。
「あうっ! あ、ひ、やぁっ」
 乳首を舌で転がしてはきつく吸うのを繰り返しながら、男の指は下肢へと降りていく。
 すでに細い触手が何本も絡み付いたそこは、ひくひくとだらしなく震え涎を垂らしていて、新たに触れた指に歓喜した。
「……っ!! や、いやだっ」
 小さな穴から溢れる体液を、周辺に満遍なく伸ばすように撫でる。
 膝ががくがくと痙攣したが、俺の身体は触手によって支えられているので崩れ落ちることはなかった。
 胸を責め立てていた舌が鎖骨、首筋を上り、顎を捕らえ、やがて唇が合わせられた。
「ふ……ん、んんっ……」
 口内に溜まった唾液を飲み下す。ほのかに甘い気がするのは、味覚まで狂わされているのだろうか。
「……あなたという人は、本当に快楽に弱くていらっしゃる」
「は……、っ、あ、ひっ、ひあっ!? あ、っうぁ、」
「……今日の戦闘、一歩間違えば、あなたは敵の手に落ちていた」
「やぁっ、もう、っあ」
「わかっているんですか? この程度で音を上げているようでは、捕虜になった場合が思いやられますね。連合軍の拷問はこれの比ではありませんよ。すぐに耐えかねて機密を口にしてしまうのでは?」
 ふざけるな、味方を売るくらいなら死んだほうがマシだ。
 抱きつくような姿勢で古泉の両手が後ろに回り、臀部を掴んだ。そのまま左右に割り開かれる。
 自ら分泌した粘液を纏った細い触手が数本、暴かれた穴の周りをつつき、粘液をなすりつけた。
 何をされようとしているのか悟った頭から、滝のような勢いで血の気が引く。俺は狂ったように叫んだ。
「いや、いやだ、いやだあああっ、あ、――――……!!」
 細いものが一本、あるいは束になって、身体の中に入ってくる。ぬるぬると縁や中を擦り、ばらばらに蠢いた。
「いやだ、や、はいってくるな、っめ、あ、そ、んな、んんっ、あ! ひぃっ!」
 いっぱいに広げられ、奥まで犯されている。こんな機械なんかに。生き物ですらない、プログラミングの産物。
 古泉の手が尻たぶを揉み、それにつれて中の触手のぶつかる場所が変化する。
 快感のあまり溢れた涙が頬を伝い、緑色の軍服に小さなしみを作った。