ハルヒのけったいな能力なんぞさっさとなくなってしまえ、そのほうが世のため人のためだ。
 と、俺は本気で思っているのだが、ハルヒの力に価値を見出しているやつらは、もっと観測したい、あわよくば自分たちの都合のいいように利用したいと考えていて、そのためにはハルヒが大人しくなってしまうのは困るらしい。
 であるからして、そういうやつらからすれば、俺は目の上のたんこぶなんつう可愛いものではすまず、そりゃもう悪性の腫瘍くらい目障りな存在なんだろう。
 自分がハルヒの鍵なんだと耳タコで聞かされ続けてはいたけれど、俺はそれを大して気にも止めていなくて、まるで警戒が足りなかった。
 そんな俺の侮りと、ハルヒの力を狙うやつらの思惑とが招いた忌まわしい出来事、情報統合思念体の一部過激派による腫瘍摘出手術からはや三週間。
 暴行の爪痕はいまだ残る。夜、悪夢にうなされて飛び起きることもある。
 だが、失ったものばかりではない。変化したもの、新たに得たもの。
 中でも一番大きかったのは古泉で――――俺と古泉は、秘密を共有している。


「……何を考えてらっしゃるんです?」
 横たわっていたベッドから上半身を少し起こした古泉が、腕を伸ばして、俺の肩にかかる毛布を直しながら言う。
 こいつだったらこういう質問に平気で「あなたのことを考えていました」とか答えそうだが、俺はそこまで気障ったらしいキャラじゃないもんで、「んー……」と気だるく呻いて、自分の胸の真上にある腕を眺めた。
 昨夜さんざん俺を翻弄してくれた指が、今は毛布を摘まんでいる。
 裸で寝るって、なんだか外国映画みたいだな。
 寒くないのは、人間カイロが隣にいるからだ。
 他人の体温や脈、呼吸にこんなにも安心できるなんて知らなかった。
 俺は身体を三十度ほど古泉のほうに回転させ、微笑を湛えてこちらを見下ろす男と視線を合わせる。
「お前が隣にいると嫌な夢を見ないな、と」
「……」
 古泉の腕がぴたりと止まった。そこで止められると邪魔だしなにより重いんだが。
 待て、なぜかがむ。なぜ顔を近づけてくる。
「そんな可愛らしいことを仰るから」
 俺としちゃ事実を述べただけなんだがな。告げる前に口を塞がれてしまったのでその言葉は俺の頭の中だけで響いた。
 舌が柔らかく口の中の粘膜を探る。
 二人とも裸でベッドにもぐりこんで、キスをして、それ以上のこともする。
 週末に古泉の家に泊まるのは今日で二回目だ。
 それと俺のうちに呼んだのが一回、計三回俺は古泉と枕を共にしたわけだが、どういうわけだか古泉と寝た夜は、絶対にあの夢につかまることがない。だから安心して眠ることが出来る。
 くたくたに疲れさせられるから夢を見る暇がないだけだという可能性もあるが。
「僕は、あなたとこうやって過ごせる今が夢のようですけどね」
 確かに、あの事件がなかったら俺たちがこんな関係になることは無かったように思う。
 古泉は自分の気持ちを隠し続けただろうし、俺はやつの気持ちの正体に気付くこともなく、お互いただのSOS団の仲間としての距離を保っていただろう。
 ただの、という言葉が果たしてSOS団の前につけるに相応しいものかは疑問が残るが、今は関係ないので脇に置いておくとして。
「これは夢じゃない、ちゃんと俺たちが選び取った現実だ。そうだろ」
 俺は古泉の後頭部に手を回し、引き寄せてもっと深いキスをした。
 柔らかな髪の手触りは、結構気に入っている。