待ち合わせに最後に来たやつは団員全員におごる。
 その不条理極まりないルールが適用されたのは、珍しく俺ではなくて古泉だった。
 まさか昨日のあれからずっと寝てたんじゃあるまいな。
「すみません、遅くなりました」
 そう言って古泉は曖昧に笑うだけだった。
 図書館に向かう道すがら、ハルヒがきゃんきゃん噛み付いてくる。まあこの程度なら仔犬みたいで可愛いものだ。と思えるほど今の俺には余裕があった、なにより財布的に。
「キョン、あんたなんで金曜休んだのよ!」
「……インフルエンザだよ」
「えーっ、キョンくん大丈夫ですかぁ」
 ああ朝比奈さん、あなたは正しく天使です。
「あたしたちにうつさないようにとっとと治しなさい」
 まあお前はそんな反応だろうと思ったよ。心配してくれてるのはわかるんだが。
 うつらないから安心しろ、なんたって真っ赤な嘘だからうつるはずがない。
「みくるちゃん、有希、ちょっと離れて歩きましょ。うつるといけないわ」
 だからうつんねえって。
 ハルヒは「ふぇぇ〜」とエンジェルボイスをあげる朝比奈さんの肩を抱いて俺から離れてすたすた先を歩き出す。
 しかし長門は逆に俺の目の前までやってきた。
「ん? どうした」
「これ」
 長門が手に持っていた紙袋を差し出す。
「再構成した」
 中を見ると、俺の制服だった。そういやすっかり忘れてた。
 明日からの学校にジャージで登校する羽目になるところだったぜ。さすが長門、なんべん感謝しても足りないね。
「また明日、と言われたから、金曜にわたすつもりだったけれど」
「あ、あー……ごめんな。サンキュ。明日はちゃんと行くからさ」
「わかった」
 長門は頷いて、顔を横に向けた。視線の先には古泉がなんとも言えない笑みで立っている。
「なんだよ」
「いえ、あの、もういいです」
 よく見りゃ古泉の手にも紙袋。後ろに隠そうとする手から、俺はひったくるように紙袋を取った。
「制服じゃないか」
 古泉は観念したように両手を肩の位置まで上げた。
「その……僕の予備なんですけど」
「ありがとな」
「必要ないですよね……って、え?」
 俺は片手にふたつの紙袋を提げて笑った。
「もらっとくよ」
 こいつの予備なら、きっと俺にはサイズが少し、少しだけ大きいんだろうなあ。くそ、忌々しい。
「なに笑ってるんですか」
「いや、別に?」
 立ち止まったままの俺らに、ハルヒの声が飛ぶ。
「ちょっとぉー、何やってるの、はやく来なさい!」
 気づかぬうちに長門はハルヒたちの方へ歩き出しており、俺と古泉だけがその場に取り残されていた。
 追いつくために歩き始める。
 ハルヒ、朝比奈さん、長門の背中を見ながら、隣には古泉がいて、いつもの日常だ。
 いや、少しだけ違うな。
 俺は女子三人が前を向いているのを確認して、古泉にそっと耳打ちした。
「今度の週末、うち俺一人なんだ」





おしまい!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。