「ぅあっ、ん!」
 易々と主導権を握られてしまい、俺は古泉の指が仕掛ける悪戯に嬌声をあげた。
「あなた、本当に感じやすいですよね」
 お前さっきの見てなかったのか、見てたよな? 見るなっつったのに舐めるように見てたよな?
 だったら、これは飲まされた媚薬の効果だってのもわかるはずだろうが。
 本来の俺は高一男子のごくごく平均的感度なのだということを、その豆腐のような脳に深く刻み込んでおけ。
「そうですか? 素質がなくては、あの乱れっぷりはなかなかできない気がしますが」
「っ! お前……!」
「あそこまでよがっておいて、否定したところで説得力など皆無ではないかと」
 こいつはよっぽど俺に殺されたいらしい。
「それに見てください、もうこんなになってる」
 うるさい、見なくてもわかってるよ、自分の身体のことだからな。
 思わず舌打ちしたくなる。
 自分自身にまで裏切られる気持ちなどお前にはわかるまい。
「僕ももう……ね?」
 手を取られたかと思うと、あろうことか古泉の股間に導かれた。
 気色悪い、人がせっかく見てみぬふりをしてやっていたというのに、服を着て性器だけを露出させた変質者のような間抜けな姿を、なぜわざわざ自分から教えてくるんだ。変質者だからか。
 ああそうだな、こいつはまごうことなき変質者だよ。
「あなたのあんな痴態を見せられたら、興奮するのは当たりまえですよ」
 たっぷりの息と含みを持たせて言うな。
 俺ならお前の痴態を見せられたところで吐き気を催しこそすれ劣情など催さん。
「言いますねぇ」
「ひ」
 古泉の手がケツを撫で、俺の喉からはおかしな息が出た。
「僕もここに入れてください」
 触手と穴兄弟になりたいとは、これまた随分とアグレッシブだな。さすが筋金入りの変態だ。
 ふざけるな。
「ふざけてなんかいません。僕はあなたと繋がりたい」
 言いながら、ねちっこい手つきで穴の周りをなぞる。
 たったそれだけの刺激で、そこがひくひくと反応するのがわかってしまった。
 古泉は嬉しそうに笑うと、
「あなたも本当は欲しいんじゃないですか?」
 とのたまった。
「なっ――――!」
 だからこれは、まだ催淫効果が切れてないせいだと。
 文句を言ってやろうとしたその口を塞がれた。
「んむっ」
 顔が近いどころか、距離をゼロまで詰められている状態だ。
 口の中に差し入れられた古泉の舌は、触手より繊細な動きで暴れまわった。
 咥内にあった粘液の残滓と、お互いの唾液が混ざり合ってなんだか、
「んっ……は」
「……甘い、ですね」
 同じ感想を抱いたのがすごくこの上なく嫌だ。
 足に当たっている古泉のものの硬さとか熱さとかも、大気圏突入する勢いで嫌だ。
 俺が勃ってしまっているという事実にいたっては、もう月まで吹っ飛ぶくらいの嫌さだ。

「気持ちいいですか?」
 例え気持ちよかったとしても誰が言うか。黙秘権を行使する。
「ああ、いいみたいですね」
 人の状態を見て勝手に判断しないでもらいたい。
 古泉はニヤニヤ笑いながら、「あっ」とか「ひっ」とかしか言えずに震える俺の身体を、これ幸いと弄繰りまわしている。
 形のいい唇から漏れる息が、獰猛な犬を想起させる荒っぽさだ。
「ん、結構キますね、この媚薬」
 そりゃそうだろうさ、効果のほどは先ほどの俺で実証済みだ。
 なのにマウストゥマウスのキスなんかしたお前が悪い。
「んぐっ」
 わかってんならなんでまたキスをするのかと問い詰めたい。お前に必要なのは超能力より学習能力だ。
 ちょっと、いやちょっとどころじゃないな、かなり乱暴になってきている。
 がつがつと貪るようなキスだった。
「ふ、っは」
 離れ際、古泉はべろりと唇を舐めていく。
 ……目が怖いんですけど。
 完璧獣のそれだ。なまじ顔が綺麗なだけに、ぞっとするような凄みがある。
 欲望が全部俺に向いていて、その強さに、俺の身体は竦んでしまう。
 自分がそういう欲の対象になることがあるなんて考えたこともなかったのに。
「っひ!」
 耳たぶをしゃぶられたかと思うと、熱っぽく囁かれた。
「あなたはとても扇情的ですよ」
 そんなお墨付きをいただいたところで嬉しくもなんともないんだが。
 俺にそこまでのセックスアピールがあるとは知らなかったぜ、対古泉のセックスアピールなんてあっても無駄なだけだ。
 古泉は強引な動作で俺の足を開かせる。太ももの内側が引きつって少し痛い。
 押し当てられる感触があったが、すぐには挿れられずに、古泉はぬるぬると擦り付けて遊んでいる。
「っ……」
「ずるいじゃないですか、あんな化け物には許したくせに」
 許した覚えはない。無許可で踏み込んできやがったんだ。
 そもそもお前がもっと早く助けてくれていれば、あんなことにはならなかったんだぞ!
「あなたが触手に犯され、中出しされ、卵を植えつけられ――――」
 古泉は、わざと俺の羞恥を煽るように、直接的な言葉を耳元で囁いた。
「などという普通なら絶対に見られないせっかくの光景を、観賞しないなんてもったいないと思ったものですから」
 よーし殴ってやるからそこになおれ。俺がどんだけ、どんだけ嫌だったと! 
「あなたが嫌な顔をするほど、こちらとしては燃えますね」
 そんなド腐れ外道な台詞を吐いて、古泉は先端をめりこませてきた。身構える暇もなかった。
「んっ!」
「……、ふ……入れますよ」
 入れてから言ったって遅いんだよ。
 これで俺はろくな抵抗ひとつ出来ず文句も言えないまま喘ぎ続けるしかなくなったじゃねえか。

 中をいっぱいにされ、波のような震えが走った。
 やばいいく!
 入れられただけでいくって、しかも古泉のでいかされるって男として終わる。
 そう思って堪えようとしたのに、追い討ちのように古泉が指先で亀頭を弄ったものだから。
「――――っあ……!」
 終わった。
 さよなら俺のプライド、こんにちは新しい俺。できれば一生出逢うことのないままでいたかったぜ。
 力が入り跳ねあがる身体を、古泉が抑え込む。
「ふっ、んんっ」
 腹をどろりと汚す液体が、俺と古泉の身体に挟まれて滑り、音を立てた。
「ふ、ぅ」
「!? ちょ、ちょっと待」
 いったばかりの俺にも容赦なく、古泉は揺さぶるのをやめない。
 男の硬い骨ががつがつぶつかるのと、背中が床にぶつかるのが痛かった。
「んぁ! こ、ずみ! っや! ま、っ」
 待て、速い、速いって、がっつきすぎだって!
 これも媚薬効果か、古泉らしからぬ余裕のなさ。
 独りよがりというか、自分の快感を追うのに夢中になってるような動きだ。
 俺の身体のことなんかお構いなし、ちっとも気遣っちゃくれない。
 自分の彼女との初めてのセックスをこういう風にする男がいたら、そいつはきっと事が終わった後、幻滅した彼女に別れを告げられるだろうさ、平手付きで。
 まあ古泉の場合、今までずっと我慢してたんだろうし箍が外れるのも無理はないんだろうが、だからといってそれを許容できるかというと話は別だ。直接被害にあうのは俺なんだからな。
「あ、こぃ、はっ、んんぅっ! あ」
 この自己中男に抗議してやろうと口を開きかけては意図しない喘ぎ声がこぼれてしまうので閉じて、また開いては閉じて、そんなことを繰り返すうちに何を言ってやろうとしていたのかもわからなくなるほど頭の中が快感に占拠されていった。
「ん、は」
「はぁ、はぁ……っ」
 落とされるキスが熱い。びっくりするほど熱い舌が俺をぐずぐずに溶かす。
 吐かれる息も熱い、俺を見つめる目も熱い、触れ合う肌も、時折漏らす喘ぎ声も、俺の中を埋めるものもどこもかしこも全部が熱すぎて、それだけこいつは興奮してるんだってことがわかる。
 端正な顔が歪み、ぐ、と腰を引き寄せられた。
「ひっ!?」
「くぅっ……」
 逃げようとするのを許さず、古泉はがっちりと俺を捕まえて、一滴残らず注ぎ込んだ。
「ん……はぁ、ふ……っ……」
 古泉が俺の中に入って、俺の身体でいったのかと思うと、なんかもう! なんかもう!
 なんかもう、そこらじゅう転がりまわって床をばしばし叩きながら頭を抱えて煩悶したい。
 実際は古泉の胸や肩を弱弱しく叩くことしかできていないわけだが。
 終わったんならとっとと抜け、直ちにどけ、それから歯を食いしばれ。
 古泉がゆっくりと身体を起こす。
 ほっと安心したのも束の間、俺は肩を掴まれひっくり返されていた。

 今度は後ろから、古泉の昂ぶりを押し付けられる。
 これじゃほんとに獣だ、どーぶつだ。
「んっ……あぁぁ……!」
「っ……」
 だから速いっての! 相手を思いやる心って大事だと思うぞ。
 俺がついていけるかどうかちゃんと考えてくれよ。明らかにキャパオーバーしてるだろ。
 がくがく揺すられて腰がいかれそうになる。
「ひ、あっ、待っ……」
「っ、はぁっ」
 答えは吐息と喘ぎに取って代わられた。
 古泉、いつもの物腰柔らかな穏やか副団長はどこ行ったんだ。
 スイッチの切り替えが極端すぎるんだよ、お前はもうちょっと加減というものを覚えたほうがいい。
「あ! あっ、ん! あ、あ」
 古泉が何度も腰を打ち付けてくる。
 その度に俺の頭の中には白い光が閃き、身体からは色んな種類の液体がだらだら流れる。
 ぽつぽつと床に落ちる雫が、唾液なのか、汗なのか、それとも涙なのかももはやわからない。
 わかるのは、わからなくなるくらい気持ちいいってことと、古泉が思わず余裕も吹っ飛ぶほどの激しさで俺を求めてるってことくらいだ。
 激しすぎて、だから流されちまってるんだけど。
「ん、あ、っこいず、っ、っく、あ、っもう……っ!」
 もう無理だ。必死に追いつこうとしたものの、この辺が限界らしい。
 意識がかすんできた。古泉は責め立てるのをやめないどころか更にペースを速める。
 俺を殺す気か。
「っあああ……!」
 死んだら化けて出てやる。
 身体の深くに古泉を感じたところで、俺の意識は途絶えた。


 部室の中は、先ほどの狂宴が嘘のように静まり返っていた。
 白昼夢じゃないって証拠に、俺はまだ裸なのだが。
 固い床からゆっくりと身体を起こす。そこで初めて、自分の下にブレザーが敷かれているのに気づいた。
「ん……、こいずみ……?」
「はい」
 あ、いた。
 傍の椅子に座っていた古泉が立ち上がる。
 ブレザーを羽織っていないところを見ると、じゃあこれは古泉のか。
 汚しちまったんじゃないかとチェックしたが、特に目立った汚れは見当たらない。
 俺の手からブレザーを受け取りながら、古泉が笑った。
「すみません、勝手に拭かせていただきました」
 謝罪なら、意識のない間の非道よりも、意識のある間の諸々に対して貰いたいがな。
「そちらについては謝りませんよ。僕は後悔してませんから」
 抱きたかったから抱いた、だから謝らないって、それは一体どんなレイパー理論だよ。
 訴えられたら100パー負けるぞ、お前。相手がお人よしで甘ちゃんの俺だったから訴えられずにすむだけだ。
「僕がこういうことをしたいと思うのも、するのも、あなただけです」
 ああそうかい。そりゃ良かったねって良くねえよ。俺にとっちゃたまったもんじゃない。
 視線を逸らせば、足元には鉢植えの中身の泥の塊と、元に戻ったひょろひょろの蔓植物が絡まって落ちていた。
 そういや、なんで植木鉢を破壊したくらいであっけなく元に戻ったのだろう。
 古泉は知ってたのか?
「いいえ、知っていたわけではありません。ただ、理屈はどうあれそうすれば戻るのだとわかってしまったのですから仕方ないでしょう?」
 以前聞いたような台詞の後、古泉は爽やかに笑った。
 そりゃお前はすっきりしたかもしれないが、俺なんかとんでもなく酷い目に合わされて、賠償金を払ってもらいたいくらいだ。
「そうですねぇ、じゃあその鉢植え、僕が弁償します」
 当然だな。
 先に言っておくが、今度は無難な植物を頼む。





ほんっとうにすいませんでした