「はっ……あぁ……ん、……あ?」
 しつこく乳首や耳、わき腹だとかの性器以外で敏感な部分を弄くり倒されれば、焦れて腰も揺らめこうというものだ。
 それに気づいた古泉が動いたので、ようやくきちんと触ってくれるんだと安堵しかけたのも束の間、古泉の身体は俺を置き去りにしたまま離れていった。
 思わず不満げな声が漏れてしまったが、誰も俺を責めることなどできないと思う。
 ねちっこい愛撫にすっかり力が抜けて、早くもっと、直接的な刺激が欲しくてたまらないのに。
 この状態でさらに焦らそうってのか、と古泉を睨むと、ろくでもないことを企んでいる感じの笑顔がろくでもないセリフとともに返ってきた。
「ご自分でして、見せてください」
 出たよ無茶振り。俺はリアクション芸人じゃねえんだよ。
 ベッドの上で散々身体を高めるだけ高めておいてこの仕打ちだもんなあ、愛を疑うね。
「心外ですね、愛しているからこそ、あなたの色んな姿を見たいんです」
 どろり、と熔岩のように欲情の溶けた瞳が俺を映して細められた。おま、その顔しながら舌で唇舐めるの反則だって。
「あなたもそのままではつらいでしょう? ……さあ、どうぞ」
「……っ」
 悔しいがつらいのはそのとおりで、もう色々と限界だ。
 このまま放置プレイを耐えるか、古泉の前で自慰をする羞恥に耐えるか。
 どっちにしたって最終的には古泉の望むとおりの展開が待っているのだとしたら、遠回りより近道を選んだほうが賢い。
 一度大きく息を吐いて、そろそろと自分の前に手を伸ばした。
 直接触れられてはいなかったが、硬くなって先走りを吹きこぼす勃起に指を添えようとして、
「ああ、違いますよ」
 なにが。お前が自分でしろって言ったんだろう。
 訝しんで見上げると、ニヤニヤと楽しそうにこちらを観察している目にぶつかった。
「そうではなくて」
 雫が曲げた足を伝い落ち、背筋が震える。
「……そちらではなくて、後ろで。してください」
 ああ俺よ、急がば回れ、という先人の言葉を思い出すべきだったね。
 伸ばしかけた手を宙で停止したまま古泉を見つめ、さあっと血の気の引いた頭で、いかれてるとしか思えないその言葉の本気度を探る。
 にこ、と表面だけは優しい笑顔を向けられて悟った。
 百パーセント本気だ、この男。
「じょっ……冗談じゃ、」
 冗談じゃねえぞ! 他人に自慰を見られるなんてただでさえ羞恥で死ねるってのに、あまつさえ後ろを使ってしろだと、お前は俺に何本首括りようの縄を買わせる気なんだ。
 動かないでいる俺に、古泉が柔らかく声をかける。
「できませんか」
「……できるわけ、ねえだろうが……っ」
 まともな神経の持ち主なら、到底飲めるはずがない条件だ。
 俺は緩慢ながら首を横に振って、無理だ、と主張した。
 だが、身体を侵蝕する熱が解放を求めて噴出そうとしているのも事実で、このままでは苦しすぎて、そんな俺の葛藤を読み取ったかのように古泉は笑った。
「では、ずっとそうしていると?」