臨時充電器消失泉と携帯キョン
僕の手を振り払おうとした彼は今にも倒れそうだった。現にほら、掴まれた手を解くことができない。
どう見てもふらふらなのに、彼が僕を拒む理由を、僕は知っている。
「触るな! まだ平気だ……!」
あからさまに強がりだとわかる嘘を吐いてなんになるんだろう。呼吸が速く浅く、辛そうな身体で精一杯の虚勢を張って、どうせ最後は僕を受け入れるしかないのに。彼の身体はそういう風にできている。
だから僕は力の抜け切った彼の身体を抱きよせて、耳元で囁いてやった。
「でも、もうそろそろ限界でしょう? あと一度着信でもあったら意識飛んじゃうんじゃないですか」
「……!」
アンテナのついた彼の耳がさっと赤くなる。
ああ、思い出したのかな、昨日意地を張りすぎて気絶してしまったこと。
意識のない間に挿れられた彼が、目を覚ました時の表情といったら最高だった。
そのことが尾を引いていて、今日こんなに嫌がるのかもしれない。馬鹿だな、逆効果なのに。
「あっ、!」
僕には電波受信機能はないし、占いアプリも入っていないが、まるで先ほどの言葉が予言でもあったかのように、彼の身体が震え始めた。
「……っ、あ、ぅ……っあ、あ」
内蔵のバイブが彼を揺さぶり、彼は絶望的な鳴き声をあげた。
バイブの間隔からしてメール着信のようだ。
彼は両手で肩を抱き、背を丸めて必死に耐えているが、力尽きるのも時間の問題だろう。
その目に次第に悔しさや諦めと共に涙が浮かんでくる。
「う……っ、ひっ……」
彼を抱きしめても、もう抵抗はなかった。向きあったまま膝の上に座らせる。
僕はくすくす笑って、彼のベルトを緩めた。ズボンを引っ張り、露出させた双丘を掴んでぐっと開く。待ち望んでいたようにひくひくとひくつく穴。
朝までここであんなにあいつを貪っていたくせに、彼ときたらすぐにお腹をすかせてしまうのだ。
彼はもう首を振る気力もないのかぽろぽろと涙をこぼすがままにし、支えがなければ今にも気を失ってくたりと倒れてしまいそうだ。
彼はいつもこうやって限界ぎりぎりまで我慢する。ごくたまにそれが功を奏して、一度も僕を必要とせず家に――――あいつのところに帰れる日があるからだ。
僕と同じ顔をしたあいつのことを考えたことによって生じた苛立ちを、僕は目の前の彼に全部ぶつけることに決めた。
「たっぷり注いであげますから、どうぞ、存分に味わってください?」
指を入れれば、毎日僕を受け入れている彼のそこはすんなり開いて、柔らかく、そして貪欲にまとわりついてくる。
でも指では彼の飢餓は癒えない。充電するためには僕を直接挿し込まないといけないのだ。
「あ……っ」
さっきまで嫌がるそぶりを見せていたくせに、もどかしげに腰をもじもじと動かす。閉じそうな目が、とろりと欲を孕んで溶ける様はたまらないものがある。もう意識がほとんど飛んでいるようだ。
でもまだもう少し遊びたい。
くち、くち、と音を立てながら二本の指でゆっくりとかき回した。
わざと焦らして楽しんでいると、とうとう耐えきれなくなったのか忙しなくか細い呼吸の隙間から、早く、と声が聞こえた。
「……入れて欲しい?」
こくり。
「入れて欲しいときにはどう言うんでしたっけ?」
「……い、れて、ください……っ」
よくできましたの代わりに彼の一番感じる膨らみを押しこむように揉むと、泣き声とも悲鳴ともつかない声が上がる。
力なくひくひくと泣く彼の耳をぞろりと舐め上げてやり、そっと囁いた。
「――――僕のほうがいいですよね」
こくり。
だが今度は頷くだけでは許してやらない。
中の指を動かして肉壁に圧をかければ、彼も自分の答えが不完全であったことを悟ってわななく唇を開いた。
「……ね?」
「っ……まえ、おまえが、いい……っ」
全身が歓喜した。彼が今求めているのは僕だ。あいつではない、他の誰でもない僕なのだ。
彼の足の間に自分を押し当ててずぷりと挿しこむ。中を埋めるものを待ちわびていた穴は、僕をおいしそうに飲み込んでいった。
「あ……あ」
彼がうっとりと声を吐き出す。柔らかく締めつけてくるそこに奥まで挿しこみ、対面座位の状態で彼の身体を支え、揺さぶる。
「んっ……ぅっ、んっ、ん、あ、んっ!」
「ほら、ちゃんと掴まって」
彼の腕を僕の首に回させる。やっと与えられた食事に夢中の彼は素直に従った。
「ふふ、僕のでお腹いっぱいにしてあげます。好きなだけ飲んでくださいね」
ひっきりなしに喘ぎをこぼす唇を塞ぐ。気持ちよさそうで何よりだ。
こうやってひとたび溺れてしまえば快楽に従順なくせに、明日もきっと、彼は充電切れ寸前まで僕の手を取ろうとはしないのだろう。
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