「も……ゆるし……や、だぁ……」
 ぐちゅりと重たい、粘ついた音が自分の下半身から響いてくる。ろれつが回らず、まるで年端もいかない子どものような幼い口調に聞こえてしまうのが嫌だった。
「駄目ですよ。残さず食べるまでは許しません」
「ひぐっ……!」
 中をぐるりとかきまわされて喉から悲鳴が漏れた。
 腰だけを高くあげて床に這いつくばっている俺の目の前には、料理の載った皿が置かれている。シチュースープと、魚の身を薄切りにして火で炙ったもの、それからパン。
 古泉はペットを可愛がる飼い主のように俺の横に膝をついて寄り添い、その右手の人差し指と中指は俺の身体の奥深くにまで入り込んで好き勝手蹂躙している。
 四つん這いの俺を見下ろす古泉の姿は、まるっきり犬に食事を与える主人の図だろう。
 俺はそれなりにきちんとしたしつけを受けてきたまっとうな人間なので、こんな行儀の悪いことは倫理観が許さない。
 だが、この船の上での俺の拒否権などないに等しかった。
「う……無理、だ、食べられな……っあ、」
「だあめ。ほら、食べてください。おいしいですよ?」
 くすくすと底意地悪く肩を震わせ、古泉は指を揺らした。
 夕食中、俺はテーブルナイフでの襲撃を試みたのだが、見事返り討ちにあいこのザマというわけである。
 古泉は椅子に座っていて、丸腰で、食事中で、完全にふいをついたと思ったのに、簡単に俺の攻撃を避けたのだ。
 腕をひねられナイフを落とされ、お仕置きと称して後ろを弄られながらの食事を強いられている。
 「おいた」をするナイフとフォークとスプーンは全部取り上げられてしまったうえに、両手は身体を支えるのに精いっぱいなので、顔を皿に突っ込むようにして食べるしかない。
 それだけでも辛いのに、古泉が後ろに入っている指を絶えず動かすのだ。
 こんな状態でまともに食事などできるはずがない。
「あなたときたら、服を着るのは嫌だ、食事をとるのも嫌だで、ようやく食べてくれるようになったと思ったらこれですもんね。……いいかげん、素直になって下さらないと」
 ……ね?
 甘い声が脳髄をしびれさせる。
 絶対的強者の余裕を見せつけられ、心が絶望に侵されていく。
 身体に巻きつけていたシーツはとっくに剥がれていて、つまり俺は全裸に首輪だけ巻きつけて四つん這いでいる、船長の愛玩動物でしかなかった。
 食べ終わるまでこの屈辱的な行為が続くのだ。食べなければ終わらない。
 プライドはとっくにずたずたで、涙がシチューに何滴か混ざった。震える腰をかかげ、頭を下げて舌を差し出す。
「はっ……ん、はむ……」
 魚の薄切りを唇で挟み、舌を使って口の中に招き入れる。
 咀嚼の最中も古泉がぬちぬちと指を出し入れするので、俺はむせないように必死に魚を飲み込んだ。
「ふふ、こっちの口もおいしそうに飲み込んでますね」
 二本差しこんだ指を中で開いて、古泉が笑う。広げられた穴はオイルでぬるついていて、指を抜き差しされるたび耳を塞ぎたくなるような音を立てた。
「もっと食べたいでしょう?」
「ひうっ……! あっ、ん、っあ! ひっ……!」
 指が増やされた。根元まで押し込まれた三本の指が曲げられて、ぐぷぐぷぐちぐちと穴をかき混ぜる。前立腺をぐいぐい押されて怖いほどの快感が身体を貫き、なのにその快感の出口を塞がれているようで、俺は泣き喚いた。性器は痛いくらい張りつめて、先端からたらたらとこぼれた体液は床にぽつぽつと水たまりを作り始めている。いきたいのに、そこに触ることは許されていない。もし触ったら両腕を縛りあげると言われてしまっては、俺に出来ることは早く目の前の食べ物を片付けることだけだった。
「ゆ、び、やめっ……!」
「どうして? こんなにおいしそうなのに。柔らかくなって僕の指を舐めてますよ、ほら、奥までいっぱい……」
「ひっ!? 駄目だ、だめぇ……っ、そこ、さわ……ん、なぁっ! やああああっ!」
 ぐりぐりと中の壁に刺激を受けて、俺はたまらず悲鳴を上げた。
「あなたの中は僕を離したくないって、もっとちょうだいって、こんなに締め付けてるのに」
 指がゆっくり引き抜かれていくのと同時に、粘膜の擦りあげられる感覚。俺の身体が勝手に古泉を逃すまいと引きとめている。
「ふっ……く、ぅ……」
 ぺたりとついた上半身がぶるぶる震え、俺は泣きながらシチューに舌を伸ばした。
 少しでも食べなくては、ずっとこの快楽地獄が続くだけだ。まだ皿の上には魚もパンも残っていて、あとどれくらい時間をかければ食べきれるのか見当もつかなかった。
「う、んんっ……あ、」
 古泉の指がシチューをすくって、俺の口の中へと捩じ込まれる。必死に舌を絡ませて舐めとった。
「むぐ……んぅ、んっ、……ふ……」
 与えられる古泉の指を上と下でしゃぶり、俺は泣きながら食事をする。そんな俺に、笑って古泉は言った。
「デザートもありますから」