白いフリルのカチューシャ。同じく白いフリルのエプロン。スカート丈が膝より少し上の、濃紺のワンピース。
これが今の俺の衣装である。
映像ではなく文章を伝達手段に選んでまだよかったと思う。
もしこれがTV番組だったなら、放送事故ではないかという抗議の電話が鳴りっぱなしになっているところだ。
なぜ俺がこんな、19世紀末の英国において家事使用人などの女性が着用した特定の傾向の範囲内のエプロンドレスを現代日本のサブカルチャー的にアレンジした服(ありがとうウィキ先生)を着用せねばならんのだろうか。
それはひとえに、クライアントのご要望だからである。
こんな平凡極まりない容姿の男を捕まえて可愛らしいエプロンドレスを着ろとは、一体何を考えているのだろうかね。
もしも朝比奈さんがお召しになったならばまるでそれを来て生まれてきたかのように至極お似合いになるに違いないのに、何故着用者に俺をチョイスしたのか激しく疑問である。
「そうですか? たいへんよくお似合いですよ、――――メイド服」
古泉お前は黙ってろ。
人がせっかく、せっかく直接表現を避けていたというのに、どうしてそうやって一瞬で俺の涙ぐましい努力を無に帰してくれやがるんだ。
現実を直視したくないお年頃、モラトリアム万歳、そんなわけで俺はなるべく自分の身体を視界に入れないようにしており、代わりに目に映るのがニヤケハンサムの通常の三倍ニヤケた面であるのはまったくもって忌々しいことこの上ない。
「それでは両手でスカートをつまんで、軽く持ちあげてからセリフをどうぞ」
瞬間、俺の胸の内をあらゆる罵倒が通り過ぎていったが、口から出たのはそのどれでもなかった。
「……精一杯ご奉仕いたします、ご主人様」
仕方ない、仕方ないのだ。今日一日俺はメイドでいなければならない。どんなサービスを求められてもそれに応じる、職務に忠実なるメイドだ。
断じて俺の意思ではなく甚だ遺憾ではあるが、そう決められてしまったのでどうしようもない。
「あ、そうだ、せっかくですのであれやってください。スカートの裾を口にくわえるのを。サービスとしては極上だと思いますよ」
健全なる精神を持っている高校生男子にとって、なんという辱めだろうか。
しかし今日の俺は高校生である前に絶対服従のメイド。
だからそう、たとえ自ら下着を見せつけるような意に染まぬ行為であっても、命令された以上従わなくてはならないのである。
俺は耳が熱くなるのを、たまらない羞恥を、太ももに直接当たる空気を、そして古泉の視線を感じながら、スカートをつまんだ指をそろそろと持ちあげ、紺色の布地を噛みしめた。
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こさじさんお誕生日おめでとう