※射手座で年下総長かつ参謀に猫耳尻尾が生えて女体化する話です注意
「作戦参謀、いらっしゃいますか? 少し見ていただきたい資料があるのですが……」
彼の自室のドアの前に立ち、認証パネルに向かって話しかけたが応答はない。
不在だろうかと思ったタイミングでシュン、と軽い音を立ててドアが横に開いて、中から予想外の人物が現れた。
「長門さ……、情報参謀」
どうして彼女がここに、という僕の疑問も特に意に介した様子もなく、長門さんはちらりと僅かにこちらを一瞥したのみで、すっと歩を進めた。
迷いのない足取りで去っていく彼女に、僕の疑問はこの場に置き去りにされることが確定し、追求を諦めた僕は開きっぱなしのドアへと向き直った。
「あの、失礼しますよ?」
「え? こ、古泉っ!?」
途端中から飛んできた声は、耳慣れないものだった。
続いた、わぁやめろ入るな、と叫ぶ声も。
そうして室内へと足を踏み入れた僕は、とんでもないものを目にすることとなる。
「あ、なた……! 参謀……!?」
「……流石だな。誰だ、とは言わんのか」
やれやれ、と観念したように片手をあげるその仕草はよく知るもので、けれどそれを行う腕のつくりがまるで違った。
いや、異なっているのは腕にとどまらず、慌てて羽織ったのだろう、肩に軍服をひっかけただけで何も身につけていない上半身には、通常彼が決して持ちえないはずの、丸みを帯びたラインがある。
率直に言ってしまうなら、その、胸が――――女性のように、膨らんでいる。
それだけではない。
顔は彼らしさを残しつつもはっきりと女性の容姿に変化している。
しかも頭には猫のような耳が生えており、背中の方からのぞく長いしっぽが、気まり悪げに控え目に揺れた。
総合すると、女性化した半裸の彼、猫耳尻尾つき、がベッドに座っているのだ。
自分の目を百回くらいは疑ってしまいそうになるのも無理のない光景だった。
「なっ、なに、どうしたんです、その姿……!」
階級は僕のほうが上だが、年齢は彼のほうが上だ。
そのせいもあってか、どうしても僕は彼に対する敬語が抜けない。
「あー、長門に、ちょっとな。ナノマシン注入してもらって、少しの間だけ肉体構成情報の改変を頼んだんだ」
「どうしてそんなこと……」
紳士としてここは直視してはいけないと思いながら、男としてどうしても豊かな胸と影の落ちる谷間が気になってしまい、僕はもはや胸元を掻き合わせる気もないらしい彼から視線を逸らして言った。
彼はばれてしまった以上隠すのは無意味だくらいに軽く考えているだけなのだろうが、そういう問題ではないと自覚してもらいたい。
「ほら、今度母星から監査官がくるだろ? そいつがさ、案内に若い女の子つけろって言ってきたんだよ。案内とかいいながら接待しろってのが見え見えなもんで、だがセクハラされるってわかってるのにみすみすうちのやつらを人身御供に差し出せんだろう。じゃあ俺が引き受けようか、と思ってだな」
「な……」
何を言ってるんですかこの人は!?
咄嗟に怒鳴りつけなかった自分の理性は褒められてしかるべきだろう。
「つまり、ご自分が身代りになると?」
「まあ、そういうことになるな。どうせ誰かがやんなきゃいけないわけだし、だったら部下を守って泥をかぶるのが上に立つ者の務めだろうよ。それに俺なら、元が男なわけだからセクハラくらい適当にあしらえるさ」
まさか猫耳尻尾のオプションをつけられるとは思わなかったがな、容姿が見劣りする分それを補う要素が必要だったんだろう、と苦笑する彼に、脱力するか、怒るか、呆れるか、悲しむか、僕の取るべきリアクションとしてはどれが正解なんだろう。
「本当にそれでいいと思ってるんですか? セクハラされても構わないと?」
怒りを選択して声に滲ませてみたが、返ってきたのはプレーンな態度だった。
「そりゃ確かにちっとも嫌じゃないと言ったら嘘になるが、別にチチばっか見られようが万が一ケツ触られようが、結局偽もんなんだし、そう気にすることでもないと思うぞ」
僕は今度こそはっきりと感情に火がついたのを感じた。
駄目だ、この人はちっともわかっていない。全然、まったくわかってない。
僕より二つも年上のくせをして、いつもことあるごとにお兄さんぶるくせをして、はっと目の覚めるような鮮やかな作戦を立てるくせをして、自分のことに対する理解がまるで足りない。
「どうして僕に相談してくださらなかったんです。僕はあなたの……恋人、でしょう」
そうだ、どうして僕じゃなくて長門さんだったんだ。
もっと僕に頼ってくれたっていいのに。
すると彼はなにを当たり前のことをといったように答えをよこした。
「お前、ここのところ忙しそうだったじゃないか。それをわざわざ煩わせるまでもないだろ」
「ですが、あなたのためなら時間くらいいくらでも割けます!」
「だからそういうのが嫌なんだって。お前は余計な心配しなくていいから、自分のやるべきことだけしてろ」
「子ども扱いしないで頂けますか」
険が混じるのも仕方がない。
「そう思われたくないのなら駄々をこねるのをやめろよ。俺だってお前とは対等でいたいと思ってる。だからこそお前の力を借りたくないんだよ」
「ですが……っ」
唇を噛みしめる。
僕が年下であることを気にしているように、彼も自分が僕より階級が下であることを気にしているのだ。
知っているし、覚えのある感情だからこそ、僕は理性的な説得の言葉を見つけられない。
「嫌です。あなたの身体に、僕以外の誰かが性的意図を持って触れるなんて」
そうして溢れてこぼれた本音は、思いのほか拗ねた響きになった。
彼がきょとんと眼を見開く。
「んな、おおげさな。別に枕営業するわけじゃないんだぞ。せいぜいセクハラなこと言われるか、軽いボディータッチくらいだって。それに俺も黙っておとなしく触られてるつもりはないし」
「でも、嫌です。あなたが部下を守るためにそうするというなら、僕にもあなたを守らせてください」
僕には幕僚総長としての権力と人脈がある。
それらを使えば、きっとどうにかできるはずだ。
彼はしばらくじっと僕を見つめて考え込んでいたようだが、やがて溜息をついた―――あまやかな、許容の溜息を。
「くれぐれも無茶なことだけはすんなよ」
「あなたに言われたくないです」
それもそうだな、と笑う彼はわかってるんだろうか、胸が丸見えなんだけれど。
いい加減きちんと服を着てもらいたい。
僕が目の毒にじわじわと理性を蝕まれていると、
「でも、せっかくわざわざナノマシン注入までしてもらったのに、なんもしないで戻るってのもなんだな。もったいない気がするよな」
彼はにっと小悪魔な猫科の笑みを浮かべて僕を見上げた。
「お前が触ってみるか? 『性的意図を持って』」
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reiさんお誕生日おめでとうございます